025:狂気
「なぁ…ゾロ……俺のこと、好きか?」
「ぁ……っ」
「どうせ答えてくれねぇんだろ?だったらこのまま……」
俺の指は、ぎりぎりとゾロの首に食い込んでいく。
殺す気で来れば俺の腕を振りほどくことができるだろうに、こいつはそれをしない。
なぁ、俺がお前を殺さないって思ってる?んなの、わかんねえよ?
「かはっ、……ぅあ……!」
「ねえ、苦しい?……俺も苦しいんだ。お前のせいだよ?」
ぐっと親指に力をかける。俺って結構力あるからさ、お前の喉を潰すことくらいはできるかもね。
でも優しいおれは、いつもそこで止めてあげる。
手を緩めた瞬間、ゾロの喉がひゅっと鳴る。
「ぁ、がはっ!!げほっ!げほっ……」
あーあ、可哀想に、目に涙まで溜めちゃって。そんな顔、俺以外の前で見せるんじゃねえよ。
ゾロの涙を拭おうと、親指を頬に宛がう。さっきまで喉にかかってた指だ。そして、ゾロの好きな俺の指だ。
ゾロは絶対に俺の指を傷つけたりしない。
だから、抵抗できない。
俺はそこに付け込んで、ゾロの首に手をかける。
とんだ茶番だ。しかし、俺の狂気は収まらない。
焦がれるのはいつも俺。
求めるのも。
追うのも。
手を伸ばすのも。
こいつは只々俺を壊す。
そして俺は、ゾロを壊したくなる。
ゾロの頬に、水滴がいくつも落ちる。拭っても拭っても落ちてくる。
泣いてるの?
「……泣くな」
俺の声じゃない。ゾロの声だ。
泣くな?誰が?
「……サンジ……」
俺を呼ぶゾロの声。普段名前なんて呼んでくれない、ゾロの声で…。
「……泣くんじゃねぇよ」
誰が泣いてなんかいるもんか。
ゾロの腕が伸びる。俺の頬に触れる。
温かいそれは、俺の顔の水滴を拭ってくれる。何度も、何度も……。
「……あ……」
ふいに、視界が明るくなる。
靄が晴れたような、そんなかんじ。
そして俺は、俺がしたことに気付く。
「…ぁ、ゾ……ロ……」
手が震える。涙が止まらない。体の底が冷えるような感覚。
失ってしまう恐怖、そしてそれを自ら現実にしてしまおうとした過ち。
目の前が突然真っ暗になった。
ぼすっという音がした。
……どうやら、ゾロに頭を抱えられたようだった。
「気が、済んだか?」
体に直接響いてくる声。低く優しい、落ち着く声。俺の大好きな…。
「…っ、ゾロ…ごめっ……!」
後悔が押し寄せる。
いつもいつもいつも……俺は同じことを繰り返して繰り返して繰り返して…………ゾロに救われる。
ゾロの服を握りしめ、顔を押し付ける。
ゾロはただ、俺を抱きしめてくれた。
その手は俺のわだかまりを溶かすように、優しく、温かかった。
ゾロが好きすぎて思いつめて時々壊れるサンジくん。
愛情表現が苦手なゾロ。ゾロはきっとサンジくんの気持ちがわかってる。
だから黙って、その愛を受け止めるんだ、きっと。
正と負の感情は裏表で紙一重。