048:騙し討ち
「めずらしい……」
ゾロが鍛錬を終えて、さぁいつもの定位置、後部甲板で昼寝を決め込もうとそこへ向かうと、すでに先客がいた。
いつものゾロが寝ている位置で、いつものゾロのように胡坐をかき、腕を頭の後ろで組み、大口をあけて。
黒いスーツの、金髪クソコックが。
俺の場所、と多少不機嫌になるが、めずらしさが先に立つ。
近づいて、ベシベシと膝を叩くが、一向に起きる気配はない。
「おい、コック」
頭をベシベシ。肩をベシベシ。ほっぺたベシベシムニムニびよーん。
たてたてよこよこまーるかいてちょん。
うーんと唸って払い除ける仕草をするが、また元の体勢に戻る。
ちょいとばかし力を入れているのに、やはりサンジは起きない。
(んー、蹴飛ばしてみるか?)
という思考にいたり、ハタと気付く。
(もしかして、こいつが俺を起こす時もこんなかんじなんだろうか……)
いつもいつも、何度起こしても起きねぇから蹴り起こすんだよとサンジは言う。
なるほど。これは蹴り起こしたくなるなと、ゾロは妙に納得する。
ふと、悪戯心が芽生える。
どうせ寝てるんだ、何やってもバレねぇ、という気分だ。
いつもは恥ずかしくてできないけれど。
そっとサンジの傍にしゃがみこむ。
さっきまでは起きろと思っていたのに、今は起きるなと、そおっと動く。
「サンジ……」
耳元で、呟く。
優しく、髪を撫でる。
前髪をかき上げ、両目を露わにする。
額にちゅっと口づけ、再び耳元に顔を近づける。
「好きだ、サンジ……」
普段言えない言葉を、出来ない行動を。
両手で頬を包み込み、サンジの唇に、己のそれを重ね合わせた。
温もりが伝わる。愛しさが溢れる。
たまには、いいかもな……。
サンジも、寝ている俺にこんなことをしたりするのだろうか。
それなら、なんだかもったいない気分だ。
気の済むまでじっとし、ようやく唇を離す。
最後に、と、ゆっくり抱きしめた。
「うぉ!?」
「も〜ゾロってば、かわいすぎっ!」
そのまま、サンジの腕がゾロの背に回り、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
「なっ、おまっ…!いつから……っ!」
「ん〜?ゾロがほっぺたを力いっぱい引っ張った時から」
「っ、起きてるなら、さっさと目ェ開けろっ!」
先程の行為を全て知られていたことがわかり、ゾロは顔も耳も首も真っ赤に染めた。
「だって、普段あんなことしてくれないじゃん」
「なっ、そんなの…っ」
「嬉しかったよ、ゾロ」
そう言われて、バタバタと暴れていたゾロはおとなしくなる。
「言葉で聞けて、態度で示してくれて、すげぇ嬉しい」
ぼんっと音が出るのではないかと思うほど、ゾロは顔を赤く染め、サンジの肩にうずめる。
「好きだよ、ゾロ」
サンジの言葉に、心が温かくなる。
恥ずかしいけど、たまにはちゃんと素直になるのもいいかも、とゾロは思った。
「寝たフリしてると、ゾロの本音が聞けるんだな〜」
途端、サンジの顔面にストレートパンチを叩きこみ、ふんっと肩をいからせてどすどすと去っていく。
(せっかくせっかくせっかくちゃんと……!っくっそ〜〜〜!!)
後ろでは、顔を押さえたサンジが、それはそれは嬉しそうにゾロの背中を見つめていた。
瞳には、優しい慈しむ光をたたえて。
ん?騙し討ち?騙して……ま、いいや!
このラブラブバカップルめ…!(あれ、どこかで同じこと言ったっけ?)
たてたてよこよこまーるかいてちょんって、昔やりませんでした?
うちの地方限定じゃないですよね…?