050:シャツ



サンサンと輝く太陽。
突き抜けるような青空。
そこに浮かぶ白い雲。
悠々と飛び回るカモメの親子。
そして………波が揺れる気配もない、凪の海域。


「あぢぃ〜〜〜〜〜〜………」
「ちょっと、やめてよルフィ、こっちまで更に暑くなっちゃうわ」
「だってよ〜ナミー…すんげえ暑いぞー……」
「まあな〜けどよルフィ、アラバアスタの砂漠の方が暑かったぞ?」
「オデ…あづいのダメだ……」
「さすがにこれだけ風がないと、ちょっとツライわね」
「……ロビン、ずいぶんさらっと言うわね」
「ぐがーーーーーー」
「……これだけ暑いのに、よく平気で寝ていられるわね、この筋肉バカは…」
どうやら昨日から、凪の海域に掴まってしまったらしい。
いつもは風を受けてピンと張り、麦わら海賊団の象徴が描かれている帆は、だらしなく垂れ下っている。
船のどこにいても暑いのだが、少しでも涼しい場所を…と求めて自然と集まった場所は、ナミのミカン畑であった。
ナミはミカンを収穫し、ロビンは籠を持ってそれを手伝う。
ルフィとウソップは、ナミから分けてもらったミカンを(しかも無償で!)頬張りながらダラダラと過ごし、
チョッパーに至ってはすでにダウンしている。
ゾロは、少し離れた所で、木に寄りかかって昼寝をしていた。
「どうすれば前に進めるのかしら?」
「ん〜そのうち風が吹くとは思うんだけど…いつになるか分かんないわね」
苦笑しながら、ミカンをひとつもぎ取る。
「えーーーー飽ーきーたーー早く進みてぇよ〜〜いてっ!」
ナミのゲンコツが、ルフィの頭目がけて下ろされた。
「んもう、うるさいわねえ!私だって進みたいわよっ」

「んナーミさーーん!!ロビンちゅわーーん!!」
バン!とキッチンのドアが開き、片手にトレイを持ったサンジが飛び出てくる。
あっという間に2人の女性の前にたどり着き、うやうやしくグラスを差し出す。
「どうぞ、こんな暑い日には、ソーダなどいかがでしょう」
「うわ〜キレイ!!」
サンジが差し出したグラスには、薄いブルーの液体が注がれており、上には白いシャーベット、さくらんぼとミントが添えられていた。
「「うっほーーーーんまそーーーー!!」」
ルフィとウソップは体を起こし、サンジに突進するが、彼の脚に止められる。
「うるせえ!レディ達が先だ、待ってろ!!」
2人を引き止め、再び女性たちの顔を窺がう。
「ん〜おいしい!」
「ほんと、甘さひかえめだから、確かにこんな暑い日にはいいわね」
「うおーーー!!俺は幸せだーーーーー!!」
「サンジー!!俺にも飲ませろーー!!」
「うおっ、ルフィ、俺の分まで手を出すんじゃねえぞ!?おいチョッパー、早くしないとルフィに取られちまうぞっ!!」
「え!?ま、待ってくれよ〜!」

(ったく、相変わらずうるせえ奴らだな…)
ゾロは、寝ていると言っても熟睡しているわけではなかった。
というより、サンジの声に反応して、半覚醒状態から完全に覚醒したのだった。
ちらっと片目を開けて、姿を確認する。
その瞬間、どくんと、全身の血が逆流したかのように心臓が跳ねる。
慌てて目を閉じ、寝たふりをするが、動悸は治まらず、高鳴りを続ける。
(なんで…あんな格好してんだよ…!!)
暑さのせいだろう。
普段のスーツ姿ではなく、半袖の白いシャツを羽織り、胸元近くまでボタンを開けている。
下は黒いパンツだが、足元はサンダルである。
ついでに……首筋も暑いのか、髪を後ろで束ねていた。
「サンジくん、今日はずいぶんとセクシーじゃない」
「そう?暑いからね〜でも、ナミさんにそう言ってもらえると嬉しいな。ナミさんだって、とっても素敵だよ?」
「はいはい。いいから、あのバカにも早く持ってってあげなさいよ」

(まずい!こっちに……)
絶対に今、顔が真っ赤だ、と自覚しているため、いかに早く追っ払うかということに頭を巡らす。
結局、そのまま寝たふりを続けるしかないのだが…。
「ゾロ。起きてんだろ?ほれ、飲め」
目の前で声がする。おそらく、しゃがんで目線を合わせているのだろう。
(俺は寝てんだ!そこに置いて早くナミんとこ戻れよ…!)
「ゾーロ。寝てんの?」
(そうだよ!さっさと行けよ!)
心臓の音がサンジに聞こえそうで、居た堪れない。
だって、普段はそんなに色っぽい格好なんてしないだろう?
おもわずときめいたなど、色恋を覚えたばかりの少女じゃないんだから。
しばらく膠着状態が続いたが、ふっと、サンジが笑う。
「お前、身体ガチガチに緊張しすぎ。バレバレだって。ほら、目開けろって」
「………………」
そう、バレないはずがないのだ。サンジの事となると、いつも動揺が隠せない。
ゾロは諦めて、目を開ける。
そこには、見慣れているけど、やはりいつもと違うサンジがいた。
「おはよ」
「……………おぅ」
にっこり笑った金髪頭に、口を尖らせたまま答える。
その様子に目を細めたサンジは、ぽんっと緑の頭に手を置き、髪を梳く。
しばらくされるがままだったゾロは、くいっと、サンジのシャツの袖を引く。
「……何で、そんなカッコしてんだよ」
「ん?暑いから」
「そうだけどよ……」
ニコニコと嬉しそうに答える。
どうせ寝たふりなんて通用しなかったのだ。だったら、思いっきり観察してやろうと思い、じろじろとサンジを見る。
(やべェ……………カッコいい…かも……)
「何拗ねてんの?」
「拗ねてねェ」
「みんなの前でこんな格好しちゃったから?」
「…っ」
「俺だけの前で見せてよって?」
「んなことっ…言ってねェ!!」
真っ赤になりながら否定する。はずれてないトコロがムカつく。
「似合う?」
「…………ああ」
「惚れ直した?」
あまりに嬉しそうに言うものだから、立ち上がって怒鳴りつけてやる。
「ああそうだよ!悪いか!!」
「情欲しちゃった?」
「……っっ!!!!」

「黙れ、エロコック!!!!」
ゾロの叫びがメリー号に響き渡る。
「あーあ、またやってるわ」
「剣士さんったら真っ赤。かわいいわね」
ずんずんと大股で船尾に向かうゾロを、サンジがグラスを持ったまま追いかける。
「あれ、溶けちゃうんじゃない?もったいない」
そう言ってナミは、グラスの中身を飲み干す。
と、その時、ふわりとやわらかい風が頬を撫ぜる。
「あっ」
「あら」
2人は顔を見合せ、笑顔で立ち上がる。
「みんな、風が出てきたわ!この風を捕まえるのよっ!!」
「「「オオーーーーー!!!」」」

風を受けて走り出した帆船。
剣士の隣では、白いシャツがはためいていた。











うーん…あまりお題に沿ってないような…。
最近ひたすら暑いので思いついたお話。あまあま〜〜。
素直なゾロになると、暑苦しいラブラブ話になってしまうので、今回は照れるゾロ。