090:くも



「おー今日はまた綺麗に晴れてんなぁ〜あったけぇし、絶好の昼寝日和だな」
昼食の片づけを終え、さて一服と煙草を銜えながら俺はキッチンから出る。
後部甲板に回り、壁に背をつけ腰を下ろしながら空を見る。

「わたあめ」

「くじら」

「アイスクリーム」

「……骨のついた肉のやつ。……プッ」

「プリン。……今日のおやつはプリンにするか」



「……おい、うるせぇ……」
隣から声がかかった。
眠そうで、不機嫌な声だ。
「あれ、起きちゃった?」
「テメェ……わざとだろ……そんなに俺の邪魔をしたいのか……」
そう、俺は寝ているゾロの横に腰掛けていた。
隣でぶつぶつと独り言を呟いてたんじゃ、さすがのゾロだって気になったんだろう。
それとも、俺が来たことに気付いて起きたのか?愛だね、愛。
「いや〜いい天気だろ?キッチンに籠ってるのももったいねぇしな。ほら、マリモ」
「あぁ?」
喧嘩を売られたのかと眉を吊り上げたゾロだが、俺が指差す先を見て呆れた様子だ。
「な?見えるだろ?」
そこには、白くて大きな雲が、少しいびつではあるが、マリモのような形をして浮かんでいた。
「さっきからさぁ、色んな形の雲が流れていくんだよ。よく見るといろんなものに見えておもしれぇのな」
そう、俺は雲の形を見て何に見えたかを呟いてたってワケだ。
表現が食べ物に偏るのは仕方ねぇ。なんせ俺は一流コックだからな。
「……アホらし」
冷たい一言でゾロは俺との会話を断ち切り、そんなことで起こすなと言わんばかりにまた眠る体勢に入る。
ひでーよな〜。
「あーまてまて、せっかく起きたんだ。ちょっと戯れようぜ〜」
「くだらん」
「いいかねぇか。付き合えよ。ほら」
「邪魔だ、寝る」
「なあなあなあなあなあ〜」
「だああ!うるせェっ!!」
「あれ、やる」
「ァア!?」
つい俺が指差す先を見るのは、コイツの可愛いところだ。
俺が指したそれを見つけて、首をかしげて、認識して。
ちょっぴり耳が赤くなって、照れ隠しに眉を寄せた。
「……………恥ずかしいヤツ」
「そう?本物だったら、お前受け取ってくれないだろ?」
ニコニコしながら指差したそれは。

指輪の形をした、雲だった。

見つめているゾロの顔は、無表情で何を考えてるかわからないけど。
嫌そうに見えて実はまんざらでもないんだってことを、俺は知ってる。
雲の形が崩れるまで見ててくれたから、自分で言っておいて、なんだかくすぐったくなった。
のんびりと、流れゆく雲をふたりで眺める。
そんな、穏やかな昼下がり。





「……………………考えてやらないことも、ない……」
「えっ、何が、何が!?」


















春ですのでほのぼのと。
電車に乗っていたら、ホントに指輪の形のような雲を見つけたのですよ。
サンジくんってば、さらっとプロポーズ。