095:2秒
盛大なくしゃみが、立て続けに5回。
「あれ、お前、風邪?」
「…さあ?違うんじゃねェ?」
「じゃ花粉症とか」
「海の上で花粉症とかあるのかよ」
「さあ?」
「なんだそりゃ……っくしょん!」
そんな会話を交わしているのは、この船の名コックと、先程からくしゃみを繰り返す未来の大剣豪である。
くだらない話を肴に2人でキッチンで飲んでいたわけだが、唐突にゾロがくしゃみを連発しはじめた。
「寒い?」
「ん〜…寒い、かも?」
「なんだそりゃ。ったく、ちょっと待ってろ」
「へっくし!あぁ」
ずず…と鼻水をすすりながら、サンジに答える。
2人とも少し寒いくらいで風邪をひくようなヤワな体はしていないが、寒いものは寒いと感じる。
今日は一段と冷え込んでいた。
航海士であるナミの言によれば、今夜は雪になるだろう、とのことだ。
実際に先程から、いつもはよく見える星空は影を潜め、かわりに空を覆った雲が白い結晶を降らせていた。
結露のできた窓の曇り越しに、ゾロはちらっと外を見た。
「ほれ」
目の前に、湯気のたつカップが置かれる。香りから、あたためたラム酒だと判断する。
ふわりと背中に重みとあたたかさを感じて振り返ると、毛布を背中にかけられたところだった。
「おぅ、悪ぃ」
本当に寒かったのだろう。感謝の意を伝え、ずり落ちないよう毛布をしっかり被り、ゾロはカップを手に取った。
いつもの豪快な飲みっぷりではなく、少しずつ口に含む。
「はぁ〜あったまる……」
「じじくせぇな」
「うるせぇ」
「そんなに寒かったのか?」
「……かな?」
「ったく、自分のことだろ」
呆れ顔のサンジだが、ふと何かを思いついたようにゾロをじっと見る。
ゾロはゆっくりとラムを飲んでいる間中見つめられ続け、なんとなく居心地が悪く身じろぎした。
「……なんだよ」
「……………」
「言いたいことがあるなら言えばいいだろ?」
「……………」
「おい、コック」
「……………よし。俺があっためてやる」
「はあ!?」
ガタン。
いきなり床に押し倒され、唇を奪われた。
もちろん毛布を下敷きに。床の冷たさでゾロが震えないように…と考慮した結果だ。
いつも唐突に愛情表現をするサンジだが、その手並みは相変わらず鮮やかだった。
サンジとの喧嘩は日常茶飯事、戦闘においては大抵の敵はあっという間に蹴散らすゾロだが、愛のコックの前では分が悪かった。
「んんっ!」
バシバシとサンジの体を叩くが、全身で圧し掛かられているためそれ以上の抵抗はできない。
全力で抵抗を…といつも思うのだが、突然の行動に驚くことはあれど、決して本気で拒否したいわけでもないので、結局押し切られることが多い。
「ぷはあ!」
ようやく解放された時、ゾロの顔は息苦しさと少しの照れで真っ赤になっていた。
「てめ、いきなり何すんだ!」
「愛の確認」
「にこやかに言うな〜!!」
抵抗するものの、サンジの不埒な手はスルスルとゾロの体を撫でる。
鮮やかな手つきで、服をはぎ取っていく。
「やめろっ、寒いって言ってんだろ!」
「だから、あっためてやるから心配すんな」
「余計寒いんだよっ」
中途半端に服を脱がせたまま、そのまま下半身に手を伸ばす。
「ひっ……!」
少しだけ兆しを見せているモノに手を添えられた途端、ゾロの口から悲鳴が漏れる。
触れられた刺激よりも、サンジの手の冷たさに身を竦めた。
「まて……」
「すぐ熱くなるって」
言いながらサンジは、己の指を唾液で濡らし、ゾロの後ろを解し始めた。
ゆっくりと開かれていくソコに、むずむずとした違和感を感じつつも、ゾロは次第にその気にさせられていった。
挿し入れる指の本数を増やし、他の部分の愛撫も怠らない。
ゾロは、あちらこちらの快感を拾うのに忙しかった。
充分だと思ったのだろう。サンジの体重が、熱くなったモノを中心にしてゾロに圧し掛かっていく。
「あ、あ、あ、あ、あ………」
「……っ、………ふぅ……入った……」
「ふ……ぁ……」
「ゾロ……動くぞ」
サンジがそう声をかけた瞬間だった。
「まっ……!」
瞬時に、ゾロの体が強張る。
押しとどめるように手のひらをサンジに向け、もう片方の手で口元を押さえる。
訝しげに思ってサンジも動きを止めた。
その、2秒後。
「ぶえぇぇぇぇえっくしっっっ!!!」
「うあっ」
「あ」
盛大なくしゃみがキッチンに鳴り響く。
全身を使ってくしゃみをしたゾロに。
その締め付けに。
サンジは、その中で果てた。
「………………」
「………………」
「………………」
「……わ、悪ィ……」
呆然としていたサンジに、ゾロは思わず謝った。
押し倒されたとはいえ、挿れてすぐ、しかもくしゃみでイってしまったのだ。
自分だったら、ショックと情けなさでしばらく立ち直れないかもしれない。
「だから、その……」
「………………」
「寒いって、言った、だろ……?」
だんだんと不憫になってきた。
とりあえずこのままいるわけにはいかないので、ゾロはゆっくりと腰を引いて抜け出した。
サンジの下から移動して後始末をしようとする。
ぐわし。
動こうとした時、強く腕を引かれた。サンジに掴まれたのだ。
そのまま肩を抑えつけられた。
サンジの目は、異様に、燃えていた。
瞳の奥に、きらりと光る妖しいものを見つけたゾロは、そんなものは認めたくないと思いつつ、たじろいだ己を自覚した。
「ゾロ」
「な、んだ」
不覚にも声を詰まらせながら答えたゾロの耳に、宣戦布告が聞こえた。
「名誉挽回に、付き合ってもらうぜ」
寒さのせいだけでなく、体が震えた。
「待てっ!だから、寒いからヤメロって言っただろぉ!!」
「問答無用!!!」
キッチンでは、今日も恋人たちの痴話喧嘩が繰り広げられている。
そんな、くだらない日常のお話。
とある日、自分がくしゃみ連発してて思いついた、あまりにくだらなく情けないお話。
書いてて、サンジくんが不憫でした。
でも、こんなアホな話は誰も書かないであろうと思い、形にしてしまった次第であります。
このあときっと、思う存分名誉挽回したでしょうから、まぁいいや。(←ひでぇ…)