愛を………
「ぅ……あぁ…っ、……イ…ヤぁ……」
「へへっ、最高だぜ、てめぇん中は、よっ!!」
「っあ…!」
「おい、早く代われよ」
「うるせえ、もう少し、楽しませやがれっ」
「ゃ……ぁ、ぁ………」
「ほれほれ、まだまだこれからだ。くたばんのは早ぇぜ」
暗い倉庫の中、ゾロは幾人もの男達に囲まれ、その体を弄ばれていた。
衣服はすでに身につけておらず、腕は後ろ手に縛られている。
所々に痣や傷があり、首には針で刺したような痕が残っていた。
ゾロはサンジと共に、場末の酒場で酒を酌み交わしていた。
薄暗い上にロクな人間が集まらないような店だったが、2人は気にすることもなく杯を重ねる。
久しぶりの上陸、久しぶりのデート。
急ぐこともない旅路の途中、ログが溜まるのに10日掛かろうが、それはイコールその島での冒険に繋がる。
船長は喜々として飛び出し、女性陣は買い物を楽しみ、2人は気ままに街を歩いた。
船は目立たない海岸に隠し、日替わりの船番をつけ、宿だけは同じ所に取り、10日後までは各々自由に過ごすことになっている。
酒場や食べ物屋を巡るというのは、彼らにとって島に着いた時の楽しみであった。
どれほど杯を重ねただろうか。
ゾロのペースに付き合うとさすがにサンジは潰れてしまうので、マイペースで飲み続けていた。
飲みながら他愛もない話をしていたら突然、サンジの指からグラスが滑り落ちる。
テーブルに転がったグラスはそのまま床を目指し、粉々に砕け散った。
と同時に、サンジの体がぐらりと揺らぐ。
「…おい!?」
ゾロは、酔ったのかとも思ったが、それにしてはサンジの動きは不自然だった。
慌てて支えようと手を伸ばしたその時、辺りに殺気が充満した。
サンジを片手で支え、刀を抜こうとしたゾロの動きを封じたのは、一丁の銃だった。
「おっと、それ以上動くんじゃねえ」
その銃口はピタリとサンジの頭を狙い、直後に複数の銃が2人に狙いを定めた。
倒れたサンジはというと、意識はあるようだが体が震えている。弱々しくゾロの腕を掴むが、まるで縋っているかのように見えた。
ゾロはサンジの様子を見て、命に関わるものかそうでないのか、見極めようとした。
「安心しな、ただの痺れ薬さ。ただし、強力な、な。象をも大人しくさせる代物だ。命に別状はないが……」
今度は男はゾロに銃口を向ける。その眼がぎらりと光った。
「命運はこれからのおめぇの行動にかかってるぜ?『海賊狩りのゾロ』」
そこでゾロは、己の首にかかった賞金狙いの輩の仕業だと知った。
「刀を捨てろ」
「……その前にひとつ聞かせろ。解毒剤は」
「心配するな。そのうち抜ける」
「狙いは俺の首だろ。こいつには手を出さないと誓え」
「聞いてやる義理も必要もねぇ話だ。俺には今すぐ2人とも撃ち殺せる。だが……できれば生きたままのおめぇを海軍に売りつけてぇ。
おめぇが一切抵抗しないってんなら、その刀ごとそいつを道端に捨ててやるよ。運がよけりゃ追いつけるだろ、すべてが終わった後にな」
がはははと嘲笑がおきる。
「立て。刀を捨てろ」
男がもう一度命令する。ゾロはサンジを床に横たえ、刀を持たせる。
サンジは震える体でゾロを睨みつけ、離すまいと腕を掴む。
しかしそれはすぐに振りほどける程度の力でしかなく、あっさりと腕をほどかれた。
恨めしげな視線を向けるが、ゾロは感情を取り去った表情でサンジに一瞥をくれる。
「……で?」
「素直だねぇ、いいこった。おい」
男が顎をしゃくると、そばにいた別の男が、持っていたロープでゾロを後ろ手に縛り上げる。
抵抗はしないが決して屈しようとしない視線に、男は笑みを浮かべる。
ゾロに近づき、髪を掴んで顔を間近によせる。
「いい目だ。……楽しめそうだな」
「がっ…!」
言うが速いか、男はゾロの鳩尾に膝を打ちこみ、ゾロの意識を奪った。
ゾロが意識を取り戻したのは、薄暗い倉庫だった。
今は使われていないのだろうか、あちこち崩れ、荷物の残骸のようなものが散らばっている。
外の喧騒が聞こえない。街から外れた場所にあるのだろうかと推測する。
腕は縛られたままだが、問題ない。
人の気配は近くにはなく、逃げ出そうと思えばいくらでもできそうだった。
(人質まで取った割にはお粗末だな……)
不審といえば不審だが構う必要はなかった。
さてどうやってここから出ようかと考え体を起こそうとした。
(………?)
起き上がろうと試みる。……しかし、一向に体が動く様子はなかった。
(……クソッ、やられたか……)
ずいぶんとお粗末な誘拐もあったもんだとは思ったが、薬を使われたようだった。
ゾロは知る由もないが、それはサンジに使われたものと同じ薬だった。
何度も体を動かそうとするが、指や頭がぴくりと動く程度だった。
今までも何度か、薬を盛られるという事態に陥ったことがあった。
もちろんゾロはそれに屈することなどなく、強い精神力で持ってその場を凌いできた。
ただ、それは薬が効かないわけではない。むしろ、ゾロは効きやすい体質だった。
基本的に健康体であり、薬に頼る生活とは無縁だったことと、ゾロ自身が薬を嫌い、極力使わないようにしてきたからだ。
普段薬を飲まない人間はいざ飲むと効きが良いが、この状況下では逆効果だった。
(こんなもん、気合いでなんとかしてやる……)
とにかく敵のいないうちに……と動こうとする。やはりぴくりと動く程度だったが、ゆっくりと力を込めていく。
「もう起きたのか。逞しいことだな」
がたがたと音がしたと思ったら、先程の男たちが現れた。
リーダー格の男は煙草を銜えており、紫煙を燻らせている。
「…………」
ゾロは口を開こうとしたが、どうやらうまく動かなそうだと判断し、それならとおもいっきり相手を睨みつけた。
「おぉおぉ、怖いねぇ。さすがは『海賊狩り』。血に飢えた魔獣ってか?」
楽しそうに笑い、身動きの取れないゾロに近づき顔に向かって煙を吐き出す。
ゾロは顔を顰めた。………煙いからだけでなく、よりにもよってサンジの煙草と同じにおいがした。
「さぁて、ここで問題だ」
男はおどけた口調で問いかける。顔には厭らしい表情が浮かんでいた。
「このまま海軍に突き出せばいいものを、何故ここにお前を連れて来たか。わかるか?」
わかりたくもない、と、ゾロは思った。
こういった事態は経験済みだ。耐えられる。だが、避けられるなら避けたかった。
「俺たちのお遊びに付き合ってもらうぜ」
男がおいと声をかけると、後ろから別の男が近づいてくる。その手には、液体の入った注射器が握られていた。
動けないゾロの首を捉え、血管に液体を注入していく。
また痺れ薬かと思ったが、それは男のセリフに否定された。
「今度の薬は気持ちよくなれる薬だとよ。その辺りで適当に手に入れたから、効き目のほどはお楽しみだがな」
言うが早いか、男は懐からナイフを取り出し、ゾロのシャツに手をかける。
体に傷をつけることも厭わず、ナイフを使ってビリビリとシャツを破いていった。
ゾロはあちこちから滲み出る血を眺めながらも、脱出の機会を図っていた。
ぴりぴりとした痛みが全身にあるが、致命傷はない。どれも浅い傷だった。
指を動かしてみる。先程よりは力が入る。
男たちは何かしら武器を持っているようだ。銃やナイフ、刀を持つ者もいた。
うまく奪って立ち回ることができるだろうか。
歯を食いしばる。大丈夫、力が入るようになってきた。
刀を一本この口に銜えることができたなら、この場を切り抜けられる自信があった。
何だかわからない薬を打たれたが、今ならまだ体が動く。
集中して、体中の残っている力を掻き集めろ!
(…………動けっ!!)
カッと目を見開き、ボトムに手をかけていた男を力の限り蹴り飛ばす。
男たちの間に動揺が走ったその一瞬でゾロは跳ね起き、一目散に刀を持つ男へと走り寄る。
それは、薬が体を犯しているとは思えないスピードだった。
相手が刀を抜こうと鯉口を切るがそれを許さず、体ごとぶつかり共に倒れこむ。
抜きかかった刀の柄を歯でしっかりと噛み締め、首を横に振り立ち上がると、すらっと刀身がその輝きを見せた。
勢いを止めることなく斬りかかる。
……しかし、一歩を踏み出した時、突然足元を掬われるような感覚に陥る。
ぐらっと体が揺らぐがなんとか踏みとどまり、再び顔をあげた瞬間、今度は衝撃が体を走り抜けた。
今度こそゾロはバランスを崩し、その場に倒れこんだ。
(な……んだ…、これは……!?)
なんとか首だけを巡らせると、銃を手に立ち尽くしている男が見えた。
銃口からは煙が立ち上っている。
ああ、撃たれたんだと思ったら、途端に左肩がじくじくと痛み出した。
更に、痛みだけではない感覚がゾロを蝕み始めていた。先程打たれた薬の効果があらわれてきたのだ。
「ったく、油断も隙もねぇ奴だな。優しくしてやろうと思っていたが……気が変わった」
「ぐぅ…っ」
がん!とゾロの鳩尾に蹴りを食らわせる。ゾロの体は一度宙に浮き、ごろごろと転がる。
「がはっ、……ぁ、かはっ……」
男は緑の髪を鷲掴みにし、ゾロの顎の下に銃を当てて、獰猛な獣のような目で言い放った。
「覚悟しな。たっぷり遊んでやるよ。死体にならなきゃいいだけの話だからな」
それは、これから始まる狂宴の合図となった。
「ぐああっ!!」
ゾロはボトムと下着を一気に剥ぎ取られ、後ろから何の慣らしもなく肉棒を叩きつけられた。
無理矢理ねじ込まれたそこは到底耐えられず、太腿を伝って血が地面に落ちていった。
男が抜き差しをするたびに血が流れ、それが動きをスムーズにさせていた。
ゾロははじめこそ痛みを感じたものの、薬の効果か、痛みがじわじわと快感へと変換されていった。
「っ、くぅ………っ、っ、……あぅ!」
声を抑えようと歯を食いしばるが、その力さえ薬に奪われる。
ゾロは為す術もなく揺さぶられるしかなかった。
「へへっ、さすがは海賊狩り、いい体してんじゃねえの。締め付けも、最高、だぜっ!」
「ああっ!」
がつんがつんとした突き上げを一度止め、男は繋がったまま、器用にゾロの体を反転させる。その動きにもゾロは喘ぎ声を洩らす。
「あ、ああ……や……、っっ、ぁあ……」
腕は縛ったままでゾロを仰向けにし、腰の動きを再開させる。
すると、さきほど打ち抜いたゾロの左肩に己の右手を添わせ、ぐいっと親指を突き入れる。
「あああああああっ!!」
ぐちゅっという音と共に血が流れ出すが、ゾロの神経はそれを痛覚としてではなく、官能を刺激されたとして処理した。
男のものが出入りするそこもすでに痛みは感じず、ゾロに快感だけを与えていく。
ゾロのモノはいつの間にか勃ち上がり、先走りが流れ始めていた。
「随分と感じてるみたいだなぁ。けど、そう簡単にイけると思うなよ」
ゾロを犯す男は、近くにいた男から紐を受け取り、それをゾロの根元に括りつけた。
「っあ、ヤメ……ロ……」
ゾロの媚態に周りを囲む男たちは煽られ、みな自身を慰めている。
「ちょいと待ってな。一発終わりゃ、お前らにも楽しませてやるよ」
男はにやりと笑うと、銃創を抉りながら再びがつがつと腰を動かす。
「あっ、うぁ………や……いや、だっっ、あああっ!」
速度をあげ、激しくゾロの腰を揺さぶりながら、ついに男はゾロの中にその白濁を注ぎ込んだ。
その後は、周りを取り囲んでいた幾人もの男たちがゾロに群がった。
入れ替わり立ち替わり、己のものをゾロの秘部に、口に捻じ込み腰を揺さぶり、欲望を注ぐ。
ナイフで皮膚の上を辿り、浅く、時には深く傷をつける。
それらをすべて快感へと塗り替えられていく。
ゾロは己を開放することを許されず、快感は体の中で渦巻き、今にも心が崩れ落ちそうになっていた。
サンジは無事だろうか。
サンジは怒るだろうか。他の男に犯された体など……。
サンジでないと嫌だと思った。耐えられると思った。しかし、こんなにも己はサンジを求めていた。
サンジ、サンジ、サンジ…………。
突然、激しい痛みが襲ってきた。
薬の効果さえ凌ぐほどの痛みだった。
何が起こったのかと目を向ける。
それを見た瞬間、信じられない思いがよぎった。
悲鳴が口から迸る。
すでに犯されている狭い場所に、更にもうひとりの男が押し入ろうとしていた。
拒むゾロのそこを無理矢理広げ、2本目がゾロの中に侵入した。
「うあ、あ、やぁっ、……っあ、あ、あ………あああああああ!!」
体を強張らせ、背を反らせる。
締め付けると更に己を苦しめるだけだとわかっていても、力を抜くことなどできなかった。
2本の肉棒がゾロを犯す。
男たちは思うがままに腰を動かし、狂宴はクライマックスを迎えた。
サンジはようやく動くようになった体を起こし、3本の刀を握り締めた。
汚い路地裏に放り出されてどれくらい経っただろうか。
ゾロは何処へ連れて行かれた?無事だろうか。
とりあえずは先程の酒場へ取って返し、店の人間を締め上げて男達のアジトを吐かせた。
すでに海軍に引き渡された可能性もあったが、どうにも嫌な予感がした。
街はずれの倉庫が溜まり場だと聞き出し、全力で走りだす。
いくつもの倉庫が並んでいたが、5つ目に見たそこで、人の気配がした。
かなり古い上に、使われなくなって久しい様子に、どこかから侵入できないかと周りを探る。
幸いあちこちが崩れているので、音をたてないように薄暗い内部に足を進める。
初めに聞こえたのは、ゾロの悲痛な叫び声だった。
全身の血の気が引いた。急いで声がした方に走っていく。
そこで見たあまりの光景に、一瞬にしてサンジの怒りが沸点に達した。
ゾロが男達に取り囲まれ、凌辱を受けていた。
手を後ろに縛られたまま、体中に血と精液を纏わりつかせ、後ろは2人同時に貫かれていた。
あの程度の拘束で逃げ出せないゾロではない。
それでは、自分と同じように薬を使われたのかと危惧する。
怒りのあまり、ひどく冷静な己がいることにサンジは気付いた。
それでいて、手は血が滲むほど固く握りしめられている。
今飛び出すわけにはいかない。
ゾロの傍にはナイフを持つ男も、銃を持つ男もいた。
海軍に売り渡すとは言っても、殺されない保証はない。
サンジはただ、チャンスを待つしかなかった。
男達に揺さぶられながら、ゾロはふと気配を感じた気がした。あまりに馴染みのある気配だ。
待ってた。来てほしくなかった。
ふたつの感情の狭間にいながら、その気配の元を辿り、視線だけを動かした。
その目がぼんやりと捉えたものは、物陰でひっそりと様子を窺う、金髪の男だった。
(あぁ、悪ィな、こんなもん見せちまって……)
今の自分を見て、サンジは怒り狂っているだろう。
そうは思ったが、ゾロは安心した。
(無事だったか……よかった)
ほんの少し、口角が上がる。
それを見咎めた男は、更にゾロを貶めようとする。
「けっ、余裕あるじゃねぇか。ほらよっ!」
「あうっ!」
ずんっと奥を突かれ、ゾロは再び悲鳴を上げる。
あれほどの激痛も、また快楽へと塗り替えられていく。
サンジがいる。体はとうに限界を越えていたが、チャンスを作らなければと、なんとか頭を巡らせる。
後ろの2人の動きが激しくなる。勢いよく中を掻き回され絶頂へと向かっていく。
「あっ、やぁっ、…………っ、あああ、やあああああ!!」
白濁が中にぶちまけられ、ゾロは一瞬意識が飛ぶ。
真っ白になった頭は、今気を失うわけにはいかないと、必死で意識を繋ぎとめる。
ずるっと肉棒を抜かれ、ゾロはその場に倒れこむ。
何度も欲望を叩きつけられ、傷を抉られた体は、まだ一度も達してはいなかった。
根元に巻きつけられた紐にせき止められ、痛いほどに勃起しているそれは、まだ解放することを許されていなかった。
肩で息をしながら、体を動かそうと試みる。
(動く………)
初めに打たれた痺れ薬と違い、今体に残っている薬は快楽をもたらすものの、体は動くようだった。
ゾロは疲れ切った体を動かし、初めに自分を犯して以来高みの見物を決め込んでいたリーダー格の男に目をやる。
「……なぁ……」
さんざん喘がされたせいで声は嗄れ、更にハスキーになった声で言う。
「……あんたのが、欲しい………」
男は目を見開き、次いで豪快に笑った。
「はっはっはっは!!そうか、ついにその気になったか?いいぜ、来いよ。みっともなくここまで這って来れたら俺のをやるよ」
ゾロは言葉通り、起き上がれず、後ろ手に縛られた不自由な格好のままで、肩と足を使って這って行く。
勃起したゾロのものが地面に擦れ、そのたびに快感に身を震わせる。
体に増えていく擦り傷さえ、快感として拾い上げる。
男達は、地面に這いずって悶える海賊狩りを、にやにやと笑いながら見つめ続けた。
時間をかけてようやく辿り着いたゾロは、なんとか体を起こし、そのまま木箱に腰掛ける男の股間に顔を近づけた。
「なんだい、俺のブツをご所望かい。いいぜ、たっぷり味わわせてやるよ」
前を寛げた男は、ゾロの頭を掴んで己の股間に押し付ける。
ゾロは顔をしかめながらも舌を這わせ、口内に男を迎え入れた。
この際、何でもよかった。………チャンスを作ることさえできれば。
ゆっくりとした動きは、拙いながらも徐々に男に快感を与えていった。
ゾロは吐き気を覚えながらも、動ける時を待った。
男が気持ちよさげに、後ろに両手をついたその瞬間だった。
「ぎゃああああああああ!!!」
男の絶叫が響き渡る。大量の血が辺りとゾロの顔を染めた。
一瞬にして動揺がその場を支配する。
何事かと男達が武器を取ろうとした瞬間、すさまじい殺気が背後から迫ってきた。
背筋がぞっとするようなその気配に振り向こうとするが、何が起こったのかわからないままに、次々と男達は地面に沈められていった。
ある者は顎を砕かれ、ある者は内臓に致命的なダメージを受け、ある者は顔面を真っ赤に染めて倒れる。
武器を振るう間も与えられず、最後にゾロの正面にいた男は壁まで吹き飛ばされた。
静けさが戻った時、立っていたのは、金髪にスーツの男だけだった。
サンジはただひたすら待ち続けた。
ゾロが、自分に気付いたからだ。
隙を作ろうとしていた。それが分かった。
ゾロが床を這っていく間も、飛び出しそうになる体を必死で抑えつける。
まだだ。今動けば気付かれる。
ゾロは恐らく、ロクに動けないのだろう。体を引きずるように動いていた。そこを狙われれば終わりだった。
一人残らず、叩き潰す。
決意した瞬間、空気が、揺れた。
血しぶきが舞い上がり、男達の間に動揺が走った。
サンジは抑え込んでいたものを解放した。
殺気を放ち、勢いよく飛び出し、一番近くにいた男の顎を蹴り砕いた。
武器を持つ暇も与えず、次々と容赦なく叩きのめす。
最後に、渾身の力を込めて、ゾロの前にいた男を吹き飛ばした。
時間にすれば、ほんの十数秒の出来事だった。
ゾロの前に立ったサンジは、ゼイゼイと肩で息をする。
薬の効果が多少なりとも残っていた所で激しく動いたせいでもあるが、ほとんどは怒りのせいだった。
ゾロは、木箱に体重を預け、顔面を血で染めていた。
カツカツと靴音を鳴らし、ゾロに近づいて行く。
「………………何したんだ?」
「………あいつのモノ、噛みちぎってやった……」
それを聞いて、少しだけ溜飲が下がる。刀を1本振るうほどの歯だ。ひとたまりもなかっただろう。
サンジはポケットからハンカチを取り出し、ゾロの顔に散っている血液を拭っていく。
憔悴しきった表情に、胸が締め付けられる。
「………巻き込んで、悪かった………」
ぽつりと呟かれた言葉に、思わずその体を力いっぱい抱きしめる。
馬鹿野郎と言いたかった。
ぎゅうぎゅうと力を込めると、ゾロが呻いた。
あちこちに傷があることも忘れて抱きしめてしまったことに気付き、慌てて体を離す。
「わ、わりぃ」
「ちがう……まだ、薬が切れて、ねェから………」
「薬……」
「あぁ………媚薬」
そんなものまで使ってゾロを嬲りものにしたのかと再び怒りに火が付く。
もう一度蹴りつけて回りたいところだったが、ゾロの手当てが先だった。
とりあえずは縛られたままだった腕とゾロのものを解放する。
すると、ゾロの手が自身に伸び、上下に動き始めた。
「ぁ……くぅ……っ」
「お、おい……」
「あっ、サンジ……ごめっ……」
左手は自身を慰め、右手はサンジのシャツを強く握り縋りつく。
今までせき止められ続けた欲望を解き放とうと、動きを激しくする。
「あ、あ、あっ………っ、イク……!ああっ、サンジっ……サンジっ!!」
どくんとゾロの体が大きく波打ち、ついに欲望を吐き出した。
吐き出した後もしばらく痙攣が止まらず、落ち着いた頃にはゾロは意識を飛ばしていた。
この状態のゾロを、人に見せたくはなかった。しかし、手当てが必要なことは確かだった。
(チョッパーに診てもらうか………気は進まねぇが……)
他のクルーには見せたくない。ゾロ自身も決して知られたくはないだろう。
メリーに連れて帰るのはまずい。いつ誰が帰ってくるかわからない。
ならばどこかの宿で部屋を取るか。
今夜の船番は、ラッキーなことにチョッパーだったはずだ。
しかし、彼を呼びだすと、船番がいなくなる。船を空にするのはまずいだろうか……。
サンジは考えた末、やはりメリーに連れて帰ることにした。
すでに街は寝静まった夜中だ。こんな時間に船番でもないクルーが船に戻ることはないと信じることにした。
何より、たとえチョッパーを呼びに行くわずかな間であっても、ゾロをひとりにするのは躊躇われた。
(あいつ、船番のくせに寝こけてねぇだろうな……)
ゾロにボトムを穿かせ、上半身にはスーツの上着をかけてやる。
できるだけ負担にならないようにゾロを抱え、三本の刀を手にし、闇夜に紛れてメリー号を目指した。
「ゾロっ……!サンジ、どうしたんだコレっ!!」
幸い、船にはチョッパーひとりだった。
見張り台にいたチョッパーは、サンジとゾロに纏わりついたにおいに反応して、そこから降りてきた。
「チョッパー、悪ぃがこいつ診てやってくれ」
「ひどい………とりあえず倉庫に運んで!俺は毛布と医療道具持ってくるから!」
ここからは医者の領域だった。サンジはチョッパーに言われるままに、湯を沸かし、タオルを運び、手伝える範囲で動いた。
チョッパーはゾロの体を清め、深い傷の手当てをし、内臓に異常がないかを調べた。
時々ゾロの呻き声が聞こえたが、目を覚ますことはなかった。
ようやくひと通り治療が済むと、チョッパーはサンジに告げた。
「傷は、ゾロなら大丈夫。ひどい所もあるけど、しばらく安静にしてれば治るはずだから。
内臓に傷がついてなくてよかったよ…。薬も、後遺症が残るようなものじゃないから、抜ければ問題ない」
「そうか……ありがとな」
「ううん。サンジは大丈夫か?」
「あぁ、俺も薬打たれたんだが……もう体も動くしな、抜ければ問題ないなら、平気だろ」
「そうか………」
問題ないと言う割に、チョッパーの表情は暗かった。何かを言おうか言うまいか、迷っているような顔だ。
しかし、避けては通れない道だと決心し、顔を上げる。
「ただな」
「うん」
「………何があったのかは、聞かない方がいいんだろうけど……」
「……あぁ、聞かないでやってもらえると、ありがたい」
「………やっぱりな、なんとなく分かるんだ」
「……………だろうな」
このゾロの状態を見て、わからないわけがなかった。
しかし、あえて聞き出そうとせず治療に専念したチョッパーに、サンジは救われた気持ちになった。
「ゾロをな、支えてやってくれよ。ゾロは強いけど、でもたとえゾロでも………
こんな酷い扱いを受けて、酷いことされて、心に傷を負わないなんてこと、ないと思うんだ……」
「…………ああ」
「じゃなきゃ、こんな顔で眠らないだろうし………俺も力になりたいけど、俺が相手だと…ゾロは強がるだろうし……」
「………………」
「頼りなくて、ごめん」
「いや、そんなことねぇよ。助かった。ゾロも、お前に知られずに済むとは思ってないだろうからな」
「……うん。じゃ、俺、見張り台に戻るから」
「ああ。夜食、持って行くよ」
「ううん、いらない。それよりも、ゾロの傍にいてあげて」
「………ああ、ありがとう」
チョッパーの心遣いに感謝し、サンジはゾロの横に腰を下ろす。
パタンと閉まった扉を眺め、ゾロに目をやる。辛そうな表情を少しでも和らげたく、髪を梳く。
「いい仲間を持ったよな、お互い」
愛おしい想いを込めて頭をなで続けるが、サンジの胸には後悔がよぎっていた。
「……コックのくせに、酒に薬が入ってるのも気付かず……お前の足引っ張って……!」
ぐっと握りこんだ拳に、ふと温もりが触れる。
「ゾロ……!?」
起きたのかとゾロの手を取るが、目を覚ました様子はなかった。
しかし、顔は苦痛に歪み、酷く魘されはじめた。
「……ぁ、……っぁ…」
「おいゾロ…!?ゾロ!」
「ぅあ………やめっ……!」
「っ、クソッ」
サンジはぎゅっと手を握り締める。
先程までの悪夢を、夢の中でもリピートしているであろうゾロの様子に、サンジは再び胸を締め付けられる。
「ぁ……ぃ、や………ぁ……」
「っ、起きろよ、ゾロ……!もう終わったんだ……!」
「……サ………ジっ………」
「ゾロっ!!」
咄嗟にゾロの口をキスで塞いだ。呻きはサンジの中に吸い込まれ、消えていく。
ぽろっと、ゾロの目尻から涙が零れ出た。
ゾロの体の力が抜けてきたころ、ようやくサンジは離れていった。
「………ゾロ………」
ゆっくりと、ゾロが目を開く。涙で潤んだ瞳は、しっかりとサンジを捉えていた。
「……サン、ジ……?」
掠れた声が、サンジを呼んだ。思わずサンジは怪我のことも忘れ、ゾロに覆いかぶさった。
「ゾロ…ゾロ…っ」
「…………サンジ……。ごめん……」
「っ!何でお前が謝るんだよっ」
サンジは顔を上げる。怒ったような悲しいような表情をしていた。
それに対してゾロは、先程まで魘されていたのが嘘のように、能面のような顔だった。
「……お前、巻き込んだし……ヤなもん、見せちまったし…………他の、男に……」
「ふざけんな!なんでそんなに、てめぇは………人のことばっかり……!」
「……お前に、抱かれる資格なんて……」
「ゾロ!……てめぇ、それ以上言ってみろ……許さねえからな……!」
睨みつけるようにゾロを見つめる。明らかに無理をしているゾロの表情。
そんな言葉が聞きたいんじゃない。その程度で最愛の人を見限るような男に思われているのなら、本気で許せない。
自虐的になっているのか、それともサンジを想っているのか。
上っ面の言葉なんて聞きたくない。取り繕った表情など、見たくない。
「……言えよ、本音。全部聞いてやるから。それでお前を嫌ったりなんてしねぇから」
「………………」
「そんな顔が見たいんじゃない。……吐き出しちまえよ。弱音吐いたっていいじゃねぇか。ここには俺しかいない」
「………………」
「全部ひっくるめて、抱き締めてやるから。…………………愛してる、ゾロ。今までも、これからも」
「…………っ!」
ゾロの目から、次々と涙が溢れてきた。
能面のような顔がどんどん崩れ、幼子のような傷ついた表情を見せた。
涙とともに言葉も溢れ、サンジに気持ちを吐き出す。
「……ぅ、……っく、イヤ、だった……!」
ゾロはサンジの背に腕を回し、ギュッとシャツを握り締める。額をサンジの肩につけ、子供のように泣きじゃくった。
「あんな、奴らにっ……、昔なら、耐えられ……た……のにっ、お前、以外の…男に、なんてっ……!
ひっく……気持ち悪くてっ、でも、感じちまった自分が、ぅっ………もっと、イヤで……っ!
助けてくれって……何度もっ、言いたくてっ……でも、そんなのっ……うぅっ………」
サンジは、よしよしとゾロの頭を撫でる。
自分が行くまでの間、ゾロはどれ程の想いで耐えていたのだろうか。
傷ついた心を、己が癒したいと思った。
すぐには忘れられないだろう。しかし、不謹慎にも、嬉しいとも感じた。
「お前じゃなきゃ……いやだ……………サンジっ」
こんなにも想われていたのかと、心が温かくなった。
「うん、俺も………お前じゃなきゃいやだよ」
「……っく………うっ……」
「だから、自分を追い詰めるようなこと言うなよ、ゾロ」
「ごめっ……ごめんっ……」
優しく耳元で囁く。その声が、ゾロの体に染み渡った。
ようやくゾロが泣きやむと、サンジは少しゾロから体を離す。
「よし、泣きやんだな。じゃ、もう少し寝ろ。俺はここにいるから。魘されたらいつでも起こしてやる」
完全にゾロから体を離そうとしたサンジは、しかしゾロに引き止められる。
「なぁ………その、抱いて、くれ……」
照れくさそうに、少し申し訳なさそうに訴える。
「けど、お前……傷が……」
「いい。あいつらの感触が残ってて……嫌だ……」
「ゾロ……」
「頼む。………お前が、イヤじゃなかったら………」
「嫌なわけあるか!………本当に、いいのか?」
「ああ……。忘れさせてくれよ……」
「ゾロ………。……………わかった。………優しくする」
「ぁ……っ」
サンジはゆっくりと、ゾロの中に己を収める。
やはり傷が痛むようだったが、それならと出来るだけ快感を与えられるように動いた。
ゾロの手を握り、口づけを交わし、出来るだけ密着しながら腰を揺らす。
徐々にお互いの熱が上がっていき、サンジの動きが激しくなる。
「あっ、ぁ……サンジ………っ」
「ゾロ……誰にも、渡さねえっ」
「ぁあ……はぁん……あっ、や、イクっ、サンジっ……」
「俺もっ、っく……あ、バカっ」
サンジはゾロから引き抜いて外で出そうとするが、ゾロはそれを拒み、足をサンジに絡めて離れられないようにした。
「あ、あ、っ、中で、出してっ……サンジ、サンジぃっ…………あああっ!!」
ゾロは全身を震わせ、ぎゅっと内部を締め付ける。サンジもそれに促されるように腰を突き出し、体を震わせる。
2人は同時に、絶頂を極めた。
「はぁ……はぁ、バカ……お前……さすがに中出しはまずいだろ……」
「いいんだよ………だって、これが一番……お前を感じられるだろ……?」
「おまっ……恥ずかしいことさらっと言いやがって……」
思わぬゾロの行動と発言に顔を赤くするサンジだが、嬉しすぎるゆえの照れ隠しだった。
ゾロは随分と穏やかな顔になっていた。それが何より、サンジにとって嬉しかった。
「はぁ……眠ィ………」
ゾロは、今にも眠ってしまいそうなトロンとした目をする。
「ゆっくり寝な。俺も、ここで寝るから」
「あぁ………どこにも、行くな、よ……」
サンジの手を握り、ゾロはそのまま目を閉じた。
安心しきったその顔に、サンジはひとつ口づけを落とした。
「おやすみ、ゾロ」
最低限の後処理だけし、サンジもゾロの隣に横になる。
明日は起きたら、ゾロの好きなものを作ってやろう。
そしてうんと甘やかしてやろう。
これ以上ない程の愛情を注いで、甘い甘い一日を過ごそう。
なぁゾロ。
――――――愛してる――――――
「愛してる」って言葉は、この2人には極力使わせないようにしようというのが、私のポリシーです。
いつもの2人は「好き好き」言ってラブラブしてればいいんです。
でも、だからこそ、きちんと想いを伝えたいときには、きちんと言ってほしい言葉でもあります。