お勉強



「あ〜にき!」
コンコンとゾロの部屋のドアがノックされ、返事を待たずに扉が開く。
そこから、教科書とノートを持ったサンジが入ってきた。
ゾロは座っている椅子をくるっと半回転させ、サンジを見遣る。
「……なんだよ、猫なで声出して。気色わりぃな」
「あ、かわいい弟を前にそれはひでぇんじゃね〜?」
「何がかわいい弟だ」
「じゃあ愛しのコイビト?」
「……ハイハイ。で、何か用か?」
「うわ、冷たいお兄さま〜」
軽口を叩きながら、持ってきた教科書をゾロの机に広げる。
「コレ、解き方がよくわかんないんだよね」
そこにはグラフと数字が並んでいる。数学の教科書だ。
「根気ねぇな。公式当てはめればいいだけだろ。あとは計算するだけだ」
「だから、どの公式をどう使えばいいのかがわかんないんだって」
「ったく……」
「しょうがねぇだろ、数学苦手なんだからさ。なぁ教えてよ〜兄貴教えるのうまいからさ、わかりやすいんだよ」
「……おだてても何も出ないぞ」
「……ちぇっ」
「期待してたのかよ……」
ふざけたことを言いながらも、サンジの目は真剣だった。



高校3年生。
それは、これからの人生を大きく左右する時期でもある。
子供から大人に。
将来を夢見たり、不安に揺れ動いたり。
己の道を見据え、ひとつの結果を強いられる時期だった。

ゾロとサンジ。
2人は共に、大学進学を目指すことを決めた。
同じ大学を受けよう、と。
共にいたい、ということも大きな理由だが、それぞれに夢があった。
ゾロは、剣道で全国制覇を。
サンジは経営学を学び、コックになって店を持ちたいという夢を叶えるための一歩として。
ただ、それを決めたとき、大きな不安は金銭的なことだった。
2人同時に大学へ進学となれば、かかる費用もバカにならない。
2人には既に親はない。
生活を助けてくれているのは、サンジの祖父にあたるゼフだった。
その祖父に頼らざるを得ないのだが、了承してくれるだろうとは思いつつも、あまりの金額に申し訳なく思っていた。
特にゾロは血縁関係がないせいで、やはりどこか「他人」に頼まなければいけないという思いがあったのだろう。
その思いをゼフは敏感に感じ取り、それを一喝した。

「ふざけるな!俺が同情だけで2人とも引き取ったとでも思っているのか!
何の覚悟もなしに、そんなことをする男だと!?二度と同じようなことを言ってみろ、叩き出してやる!!」

有名レストランのオーナーとして名高い彼にとって、2人分の大学費用を出すことは苦にはならない。
それよりも、金のことなど気にせず、己の行きたい道に進んで欲しかったのだ。
何ともわかりづらい彼の愛情表現だったが、ゾロとサンジはそれに甘え、夢を叶えることで恩を返そうと誓った。



大学受験を決めたなら、やはりそれなりに勉強しなくてはいけない。
ゾロもサンジも決して馬鹿ではないが、受かるためにはやはり相応の学力がいる。それを身につけなければならない。
まずは目の前に迫っている、学力テストなるものを乗り越えなければならなかった。
一応大学に行くと決めたばかりだ。2人はそれなりに真剣だった。

(近い………)
真剣に勉強するつもりはある。
ゾロが、教え上手だというもの本当だ。
しかし……。
(このキョリ、まずいんじゃね……?)
ゾロの顔が真横にある。耳元で声が聞こえる。
「で、この場合はこっちの公式。計算の仕方は覚えてるだろ?だから……」
数字だとかアルファベットだとか妙な用語だとかを並べながら説明するゾロにさえ、惹かれる。
むしろ、普段の会話では使わない単語を口にされるだけで、なんだかどきどきする。
一度意識がそちらに向いてしまうと、もうサンジは集中できなくなってしまった。
(あーゾロの匂い……)
ぽや〜んとしながらゾロの声を聞く。その内容を理解することはなく、まるで音楽のようにサンジの耳に届く。
気が付けば体が勝手に動き、腕はゾロを捉えていた。
「ん?おい、ちゃんと聞いてるか……って、サンジっ!」
「あーゾロの匂い……」
今度は思ったことが口をつき、そのまま顔をゾロの首元に寄せる。
動物がじゃれるような動きから、だんだんと性的な意味合いを含む動きに変わっていく。
欲望に火が付いてからのサンジの行動は速かった。
ゾロの首筋に口づけ、舌で辿り、指は服のボタンを外し始める。
「やめろって、おい!何してんだよっ!」
椅子に座ったまま首をロックされ、振りほどきにくいことこの上ない。
暴れようとして、膝を机にガンっと打ちつけてしまい、痛みで一瞬体が強張る。
「――――って〜………」
「こら、大人しくしろって。涙目も可愛いけどさ」
「誰が可愛いだっ」
キッとサンジを睨みつけるが、次の瞬間ぴくんと体が跳ね、甘い疼きが全身に走る。
サンジが中途半端に外したボタンの隙間から手を差し入れ、胸の飾りを弄り始めたのだ。
「あっ、やめろっ」
「だーめ。やめないもん。ココは喜んでるくせに」
「な……そんなことっ、ぁ……」
「ほーら、あっという間に硬くなっちゃった。嘘はいけないんじゃない?あ・に・き」
耳元で囁くと、ゾロは顔も体も真っ赤にしてぎゅっと目を閉じる。
「な、どうして欲しい?」
ゾロの体に、サンジの声が浸透していく。
「教えてよ、兄貴」
サンジに覚えこまされた快感が、じわじわと体の内側から溢れ出てくる。
「教えてくんないと、俺わかんないよ?」
「…っ、この、変態っ」
「いいよ、変態でも。ゾロと気持ちよくなれるんなら」
耳元で囁かれる甘い声に、ゾロの体は陥落した。

サンジは椅子を少し後ろにずらし、ゾロの足を机に乗せる。
そして胸元に置いていた手を下へと移動させ、ズボンの上からゾロのモノに触れる。
「ゾロ……すんげぇ熱い」
すでにそこは熱を持っており、硬く勃起してズボンを押し上げていた。
ゾロはサンジの首にしがみつき、与えられるもどかしい刺激に体を捩る。
「な、どうして欲しい?」
先程と同じことを問う。

サンジは、唐突にゾロの体を求めることが往々にしてある。
ゾロ自身も、はじめは抵抗するものの、決してそれが嫌なわけではなかった。
体を繋げたばかりの頃は、相手が義理とはいえ弟だとか、己が抱かれる側なのかとか色々思うところはあった。
しかし、口ではなんだかんだと言いながら、体はサンジを求めていることに気が付き、それを受け入れたのだ。
ただ、どうしても羞恥心が勝ってしまうので、素直に応じることが少ないだけだった。

すでにゾロの体は快感を得ようとしはじめていた。
サンジの問いに、真っ赤になりながらも答える。
「バカっ、焦らすなっ……」
「ったく、意地張っちゃって。可愛いんだから」
サンジは嬉しそうに、ゾロのベルトに手をかけ、かちゃかちゃと外す。
ゾロの腰をぐっと持ち上げようとすると、ゾロも協力するかのように腰を浮かす。
そのまま下着ごと、膝のあたりまで脱がせる。
「あーあ、もうぐちゃぐちゃ?」
下着は先走りによって色を変えており、ゾロのモノはぴくぴくと震え、次に与えられる快感を今か今かと待ち受けていた。
竿を伝う蜜は後ろの穴にも到達し、まるでサンジを誘っているかのようだった。
サンジはまず、ゾロ自身に手を添え、ゆっくりと上下に動かし始める。
先端には親指を当て、ぐりぐりと、しかし優しく刺激を与える。
「あぁ………」
ゾロの口から、ため息のような吐息が零れる。
サンジの指が気持ちいい。
人にしてもらうのがこんなにも気持ちいいのかと、ゾロはサンジに初めて教えられたのだ。
サンジの愛撫が好きだった。
しかし、緩やかな動きは、その先を知っている者にとってはもどかしさも感じる。
ゾロは次の段階を求める。
「あっ……サンジ……」
「ん?何?」
サンジは、わかっているくせにそんな物言いをする。
ゾロからの言葉が聞きたくて……いや、もっと端的に言えば、ゾロの口から卑猥な言葉を聞きたいのだった。
「……っ、馬鹿ヤロっ、あぁん……」
「ほら、教えて?次はどうすればいい?」
意地悪く問いかけ、言わないとやらないよという様に、くっと親指に力を入れる。
ゾロは何度か口を開こうとしたが、やはり羞恥心には勝てず、結局言葉を発することができなかった。
ゾロが言えないことは分かっているが、サンジはゾロを苛めたくて仕方がないのだ。
好きな子ほど苛めたいタイプだった。
……しかし、言葉で言えないかわりにゾロがとった行動に、思わずサンジは目を丸くした。
ゾロは、自身を愛撫していたサンジの手を取り、自ら後ろへと導いたのだ。
そしてサンジの中指に己の中指を添え、2本ともズブズブと、躊躇うことなく秘部へと差し込んでいった。
「ああぁ………!」
自分の指とサンジの指が中で絡まり合い、内側を刺激する。
まるでここがいいんだと、お前も動かせと教えるように、ゾロの指が動く。
(やべぇ、鼻血出そう……)
反則じゃね?とサンジは心の中で呟く。
そりゃ確かに、ゾロに卑猥な言葉を言わせようだなんて思ったけれども。
いくら言葉にするのが恥ずかしいからといって、こんな行動に出るとは思ってもいなかった。

言葉はダメでも、行動にするのはいいのかい。

はっきり言って、嬉しすぎる誤算だ。
まるでサンジの指を使って自慰をしているようなその行動に、サンジは思わず見惚れてしまった。
「ゾロってば、インラン……いつの間にそんなんになっちゃったの?」
「っ、ぁ………ぁあ、……っくぅ…!」
ゾロの足に力が入り、机の上を無意味に彷徨う。くしゃり、とノートに皺が寄る。
必死になって快感を追い、あと少しで絶頂が見える、と思ったその時、突然動きがぴたりと止まる。
否、サンジが動きを止めたのだ。
「……ぁ?」
潤んだ瞳でサンジを見るゾロは、なんと艶っぽいことか。
しかしその眼は、なぜ止めるんだと言っていた。
「待ってよゾロ。ひとりでいかないで?これだけじゃ足りないんでしょ?」
サンジの言葉に、ゾロの視線がちらっと動く。
その視線の先では、サンジ自身もすでに大きく成長していた。
思わず、といった風にそれを見てしまったゾロは頬を赤く染め、再びサンジに視線を戻す。
「コレが欲しいんでしょ?やっぱり兄貴はわかりやすいね。教え上手?」
にっこりと嬉しそうに笑うサンジに、ゾロは嬉しくないと膨れる。
「そんな顔しても可愛いだけだよ」

すぐそこにベッドがあるにもかかわらず、サンジは性急に事を進めたがった。
ゾロの膝に引っ掛かっているズボンを片足だけ脱がせ、両足を己の肩に乗せる。
前を寛げ飛び出したモノをゾロの後ろにあてがい、ゆっくりとねじ込んでいく。
椅子からずり落ちそうなほど腰を前に突き出したゾロは、落ちまいと背もたれに縋った。
「はぁ……入った……」
奥までサンジが入り込むと、2人とも大きく息をつく。
息を吐き切ったと思った瞬間、サンジが動き出した。
両手をゾロの腰に添え、腰をグラインドさせる。
「あっ、あっ、……んふっ、………んんん!」
ゾロを貫くたびに、全身が痺れる。蠢くナカが気持ちいい。
もっともっとと、サンジを受け入れていく。
受け入れて喜んでいることを感じ取ることができるので、サンジはこの行為が好きだった。
何度でもゾロと繋がりたい。
何度でもこの気持ちを確かめ合いたかった。
「ああっ、はっ、サンジっ、サンジっ!」
サンジを呼びながら、ゾロは自身に手を伸ばし、激しく扱く。
ゾロはサンジを受け入れる。己に向けられる愛情が心地いい。
だから、答えたいと思う。
「はぁっ、ゾロっ、気持ちいい?なぁ、ゾロっ」
激しく動きながら呼びかける。ゾロはコクコクと首を縦に振り、腰を揺らす。
「あっ、サンジっ………ぁ、イク、ああん!はあ、はあ、あっ、イクっ、サンジぃっ!」
サンジの動きと自身を握る手の動きが速くなり、絶頂へと一気にのぼりつめる。
大きく体を震わせたかと思うと、ドクンと白濁を飛び散らせ、己を解放した。
同時にサンジを咥え込むそこを締め付ける。
サンジはその締め付けに誘(いざな)われ、最後に思いっきり腰を打ちつけて己をゾロの中に吐き出す。
2人の体が、ビクンビクンと大きく跳ねた。



「あー……ベトベト」
「……誰のせいだ、誰の」
「だって、あんたがあまりにもヤラシイから」
「誰がだ、誰が!」
「普段も、俺に隠れてあんな風に自慰してんの?」
「な……ちがっ…!」
「もー言ってくれればいつでも手伝うのに」
「だから違うって……!」
「よし!じゃあシャワー浴びて、勉強再開しますか」
「バカ、おろせっ」
「もー腰立たないくせに意地張らないの。それとも、風呂場で二回戦ヤる?」
「やるかっ!」
「だって〜やっぱりゾロって、教え上手だし?」
「は?」
「さっきみたいに手取り足取り、アンタのいいトコ教えてよ。ね、兄貴」
「ふっ、ふざけんなーー!!」



それからしばらくは、お勉強と称してサンジがゾロの部屋を訪れる日々が続くのであった。





















2人は大学進学を決めたようです。
ちゃんとお勉強させるはずが…あれれ?思いのほかエロく…。
好きな人の口から、普段聞けない言葉が聞けるっていいと思います。
ヒワイな言葉でも、数学の公式でも。
萌えです。