兄の悩み



「はぁ………」
「あれ、どした?」
大きな溜息を吐いて、ゾロは口に運ぼうとしていたプリンを掬ったスプーンを下ろした。
夕食後のデザート、である。牛乳瓶で作った自家製プリンだ。
正月におせちを食べ雑煮を食べ、ここ数日和風の食べ物ばかりだったのでゾロがリクエストしたのだ。サンジのプリンが食べたい、と。
だから、たった一口食べて滅多にない溜息を吐いた義兄にサンジは焦った。
向かいでコタツにもぐり込み、同じようにプリンを食べようとしていた手を止め、上目づかいでゾロを窺う。
「あー……おいしく、なかった?」
ゾロはと言えば、そんなことを聞かれるとは思いもしなかったと言わんばかりに目を見開き、慌てて否定した。
「あ、いや、そうじゃないんだ!」
ぶんぶんと大きく左右に首を振り、プリンを口に運ぶ。
「じゃあどうしたんだ?溜息なんて兄貴らしくない」
「あー…いや、……うん……」
理由を問われ、食べていた手が止まる。なんとも歯切れの悪いことだ。
「なんか、悩みとか?」
夕食が終わるまでは普通だったはずだ。それが突然どうしたというのだろうか。
「………違う、と思う」
「じゃあ何だよ、言ってくれよ、それとも俺には言えないことか?」



「…………ふとった」



「………はい?」
「だから、太っちまったの、この正月で!」
「そう?」
「そう!」
「見えないけどなぁ……」
顔を見ただけでは太ったように見えなかったが、毎日顔を突き合わせているので少々の変化では気付かない可能性もある。
そんなに気にする奴だっけ?と疑問に感じたサンジだが、そういえば体調管理も剣士の仕事だと言っていた気がする。
「…………から」
「え?」
ぼそぼそとしゃべるゾロの声が聞き取れず聞き返すと、頬を朱に染めて言いなおした。
「だから!お前のメシがうまいのが悪いって言ったんだ!」
膨れっ面で睨まれても可愛いだけだとなぜ気付かないのかと、今まで何度も思ったことを繰り返し考える。
(気付かないところもまた可愛いんだけど)
罵声を浴びせかけるように褒められては、こちらも照れるしかないではないか。
「正月だし、めでたいし、つい、食べ過ぎて……」
「わかった、俺が悪かった」
「!や、違っ、悪いとかじゃなくて…!」
ゾロが困るとわかって、敢えて謝る。
案の定、やっと素直にサンジを見たゾロに、にっこりと微笑んだ。
「じゃ、俺が手伝ってやるよ、ダイエット」
「は?」
ゾロはくるんと視界が回ったかと思うと、あっという間にサンジに押し倒されていた。
ご丁寧に、プリンがこぼれてしまわないよう手首ごと支えられる。
サンジはゾロがまだ握りしめていたスプーンを取り、ひとくち食べさせる。
「おいしい?」
「……あぁ」
「とりあえず食べちまえ」
サンジの手から、寝転んだ食べづらい体勢のままプリンを食べる。
まるで親鳥にエサをもらう雛のようだと思うと、なんだか笑えた。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
食べ終えた牛乳瓶とスプーンをコタツに置くと、よし、と気合を入れたサンジは上着を脱ぎ始める。
「始めるか、ダイエット」
「え?わっ……」
勢いよく口づけられ、舌を絡めとられ、手はゾロの体を這って不埒な真似をしようとしている。
「ん、んんん!!」
バシバシと背中を叩くゾロに、サンジは少しだけ体を起こす。唇が離れるか離れないかの距離で囁いた。
「セックスって、下手な運動より体力使うんだってさ」
そんなことは知っている。身をもって。
だが、だからといって!

「責任とって、しっかり付き合うからね、兄貴」

にっこりと笑った義弟に、朝まで寝かせてもらえないと、ゾロは正確に予想した。






















久々に登場のサンゾロ兄弟ですが、どうやら相変わらずのラブラブっぷりのようです。
ゾロは兄なのにサンジに甘えてるといい。