逆転



「よし、お前、何が欲しい?」
腰に手を当て、鼻息荒く踏ん反り返り、突然偉そうに質問をしてきたコックの姿に、
「はぁ?」
とゾロが訝しげに返したのは、仕方のないことだろう。

天候が激しく変わるグランドライン。だが今日この日の天気は、この時期に相応しくまさに秋晴れであった。
澄んだ青空、適度に心地よい風。
鼻歌でも歌いたくなるような爽やかな気分をサンジは味わっていた。
「なぜって?そりゃお前、愛しい俺のハニーの誕生日だからに決まってんだろぉ〜?」
「はぁ?お前、頭沸いたか?」
「あ、ひでぇな。俺は今傷ついたぞ!こんなに心からお前を祝ってるのに〜」
「へいへい。ならさっさとキッチンに篭って本日のバースデーディナーとやらに精を出してこいよ」
「そりゃあもちろん、ご期待以上のものを提供するけどよ。お前、何が欲しい?」
今日は、サンジにとって大変にめでたい日、愛してやまないゾロの誕生日であった。
それなのにこの恋人ときたら。
「別にいらねぇよ」
「あーあー言うと思った…。ったく物欲のねェ奴」
「わかってんなら聞くな」
「そーはいくか。俺はお前に何か贈りてェんだ!」
「はいはいそうか、何でもいいから修行の邪魔すんな」
「誰が邪魔だクラァ!!」
他愛ないやり取りから足が出るのはいつものこと。
回し蹴りをゾロが軽くかわす。仕返しとばかりにゾロが右ストレートを繰り出すも、足でいなす。
数手やり合ったところで、ゾロの動きがピタリと止まった。
「……おい、何でもいいのか?」
「プレゼントのことか?おお、何でも言ってみろ」
「そうか。じゃあ、テメェが欲しい」
さらりと言われた言葉に。
一瞬きょとんとし、言葉の意味を理解するとサンジは一気に熱を上げた。
「うおいおいおいどうしたんだよそんな急に!んな真顔で言われたら照れるじゃねぇか!」
なんてことを言いながらも、滅多にないゾロからのお誘いにサンジは浮かれる。
うきうきとゾロに接近し、耳元で甘い低音を響かせる。
「それじゃあ夜を楽しみにしてな。最高の快感を味わわせてやるよ」
こんなこと言ったら、照れ隠しに眉を寄せたり悪態をついたりするんだろうなぁとは思いつつ、嬉しさの余り舞い上がった。
だが。
次の言葉に、サンジの脳は一時機能を停止した。

「何言ってんだてめぇ。お前のケツを寄越せって言ってんだよ、サ・ン・ジ」

予想だにしない言葉を聞かされると、人間というのは思わずフリーズしてしまう性質を持つ。
この時のサンジも例外ではなかった。
にやりと笑うゾロの顔を、ただ茫然と見ているしかなかった。
ちょうど1分が経とうとした頃。
「………はい?」
「何だ、聞こえなかったのか?」
「もう一度言ってくれるとありがてぇんだが」
「だから、てめぇのケツを寄越せ」
「……どゆこと?」
「てめぇに突っ込ませろって……」
「だああああ皆まで言うなーーー!!!」
「てめぇが言えって言ったんだろうが」
「待て待て待て待て!それはお前」
「何でも言ってみろっつったのはどこの誰だ?」
「…………おれですケド」
「お前と、気持ちよくなりてぇんだよ」
「うっ……」
ずるい。こんな時だけ鼻血が出そうな程のセリフを吐きやがって。
と悪態をついても後の祭りだった。
上目づかいに少し寂しげに言われれば、断るという選択肢を消さざるをえなかった。
(てゆーか、どこでそんなキュートな技を覚えやがった…!?)
かくして、サンジはゾロに、新たな境地を開かされようとしていた。



「そんなに緊張すんなって」
「………ムリ」
ゾロを祝うパーティーも終わり、夜も更け、これからが2人の時間だといつもなら喜ばしい場面なのだが、今日はそうにはいかなかった。
セックスの立場を逆転させろと言われ、とにかくサンジは緊張しきっていた。
ゾロの為なら何でもしてやりたい…とは思うものの、体が言うことを聞かなかった。
死んでも嫌かと問われれば、そんなことはないと言える。だが、どうしても体が引けるのだ。
なんとかいつもの立場に持って行こうとしたのだが、今日のゾロはやたらと積極的だった。
普段は恥ずかしがってばかりいるくせに、さっさとサンジの服を脱がせ、ひとつキスを送ったかと思えばいきなりサンジのモノをパクリと咥えた。
「え、うわっ、ゾロっ」
突然熱い口内に導かれるも、そこは男の性である、刺激を与えられれば徐々に硬さを増していく。後のことを考えなければ、とても気持ちの良いものだった。
いつもは常に自分のペースに乗せるせいで、いざ相手に主導権を取られるとどうしていいかわからない。
ぶるっと体が震え、達するかというその時、ゾロが動きを止めた。
「あ…?」
「まだイクには早ぇだろ?」
そういうと、ゾロはサンジの体をひっくり返し、四つん這いの格好にさせた。
「待てっ、ちょ…!」
「心配すんな。優しくしてやる」
「こらゾロ!うあ……」
ゾロはゆっくりと、臀部に舌を這わせた。いきなり秘部を攻めることはせず、ペロペロと動物のように舐める。
柔らかいであろう感触を楽しもうとしたのだが、サンジの筋肉が緊張しているせいかイマイチ柔らかくない。
「おい、力抜けって」
「ムリだって…!」
むにむにと手で揉んでみるが、一向に解れる気配がない。せっかく一度勃ったサンジのモノも、虚しく萎んでしまっていた。
後ろから垣間見えるサンジの表情は、ぎゅっと目を瞑り、何かに耐えるかのようだった。
はあ、とゾロが溜息を吐く。
びくんとサンジの体が揺れる。
ゾロが口を開こうとした時、ガバッとサンジが起き上がった。
「ごめん、ゾロっ!!」
勢いのあまり、そのままゾロを押し倒す。その目はしっとりと潤んでいた。
「お前の、願いなら聞いてやりたかったんだけど……どうしても、どうしても、体が竦んじまって…ごめん……」
呆れられたかと不安になり、必死にしがみつく。
「お前が初めて、俺を受け入れてくれた時も、きっとこんな気持ちだったんだろうけど……」
くしゃりと歪んだ顔が、痛々しかった。
「お前は、受け入れてくれたのに、俺、俺は……」
そのままゾロの胸に顔を押し付け、動かなくなってしまった。
肌に直接あたる指先が、少し震えていた。
「………気にすんな。ちょっと、無理言ったか?」
「ごめん!……くそっ、情けねェ………」
情けない顔をしたサンジの頭を、ぽんぽんと優しく叩いてやる。
「んな顔されたら、できるかよ」
「ゾロ……」
「いいって。もう言わねェから安心しろ」
「でも、ゾロ……」
「てゆーかな」



「悪ィ。俺、勃たなかったわ」



「…………は?」
本日二度目。サンジはフリーズした。
「もっかい、言って?」
「だから、お前のケツ見ても、残念ながら勃たなかった」
「はああぁぁぁああああ!!?」
「むぅ、これは予想外の展開だ」
「ちょっ…おまっ…」
「不能になったわけじゃねぇとは思うんだが……」
「ちょっと待てぇぇぇええええ!!」
「うるさい」
「お前、俺のこと散々焦らしたくせに…!」
「いいじゃねぇか。突っ込まれずに済んだんだから」
「俺に…俺に感じなくなったってことなのか!?」
「さあ」
「さあ。じゃねええ!!てめぇ……これから試してやるから覚悟しとけ……!」
「うわ、待てってサンジ……あっ……」
「ふっふっふ……俺様のテクは充分身にしみて分かってんだろぉ?」
「あっ、ああ!」

結局、ゾロはそのまま押し倒されることとなり、サンジの指に、舌に、そして熱い塊に翻弄された。
もうすでに日付が変わったことにも気付かぬほど、2人は自分たちだけの世界へと没頭していったのだった。






「ま、ホントは最初っから、突っ込む気なかったんだけど」
「は……?」
「たまには思い知れ」
「なっ……なっ………オトメの心を踏みにじったわねっ!」
「誰が乙女だ気持ち悪ィ!!」


















結局、サンジにエロいことをするのでなく、されなきゃ勃たないゾロ(笑)。
祝ってますからね!ゾロ、お誕生日おめでとう!