猫日和



さすがに3日経つと、かなり馴染んだようだ。
何がって、ゾロが。
猫の姿に。

俺がゾロに例の飴を食わせてから3日目。
丸3日程で効果が切れるらしいから、明日の朝にはゾロは元の姿に戻るはずだ。
せっかくだから、それまで目一杯今のゾロを堪能したい。
そう思い、俺はずっと、ゾロを観察し続けている。
船は港を出港し、平和な海の上を進んでいた。

「ゾロ〜」
呼びかけると同時に、ひょいっと魚を投げる。
もちろん、獲れたてピチピチ。ウソップの成果だ。
ゾロは振り向きざまに跳躍し、ぱくりと、見事に魚を銜えてみせた。
空中でくるっと回転し、軽やかに着地する。
「ナイスキャッチ」
俺が言うと、ゾロは不機嫌そうにこちらを見た。
両手を床についた猫のような格好なので、可愛いことこの上ない。
耳をぴくぴくと動かし、尻尾はゆらゆらと揺れている。
「……あのなぁ、さすがにこのまま喰えるわけねェだろ。刺身にしろ、刺身に」
反射的に喰いついたくせに、そんなことを言う。
まぁさすがに俺も、そのまま喰わそうと思ったわけじゃない。なんつーか……コミュニケーションだコミュニケーション。
しっかし、さすがゾロ。よくそんなヒレをびちびちさせてる魚銜えてしゃべれるよな。
「捌いてやるから持ってこい。ウソップが色々釣ってたぜ」
そう言うと、嬉しそうに笑って俺の後をついてくる。
…気付いてないのか、魚を銜えたまま。

日に日に、ゾロは猫化、獣化してる気がする。
なんつーか、本能に逆らわないんだ。
もちろん人間としての理性はあるから、人として危ない奴になったわけではない。
ただ、反応が素直になったというか、表情や感情を無理に押し込めることはなく、思ったままに行動し、言葉にする。
俺としては、いつもの天邪鬼なゾロも好きだが、こうやって素直に表現してくれるゾロもいい。
……いや、はっきり言おう。
かなり、好きだ。大好きだ。すんげぇ、嬉しい。
普段見られない表情まで見せてくれるから、クルー皆がゾロに惚れちまうんじゃないかとハラハラするくらい可愛い。

俺がそんな風にハラハラでドキドキな時を過ごしているのも知らず、ゾロは無邪気に遊んでいる。
俺が魚を捌いている横で。
自分の尻尾を相手に。
「……お前、何してんの?」
初めは、丸くなって眠ろうとしていた。
ところが、目の前にある自分の尻尾が気になったらしい。
手で掴もうとしたら、その拍子にケツも動き、尻尾が逃げる。
また手で追いかけるが、そのたびに尻尾も逃げる。
繰り返しているうちに、その場でぐるぐる回り始めたのだ。
尻尾を相手に追いかけっこ。
……おもしろいような、笑えるような、ちょっぴり情けないような……。
目が回ったのか、結局捕まえることができないままその場にへたり込んだ。
だが少しすると復活し、キラキラした目を俺に向けた。
「なぁ、サンジ!猫ってすげェんだぜ!」
「ん?何が?」
あーあーあー、子供のような顔しちゃって。
これにつられて、子供や小動物を相手にしてるような態度になる時がよくある。
普段のゾロなら怒るだろうが、猫のゾロはそんなことは気にしない様子だ。
「いつもなら、こんなに回ったらすぐ目が回るのに、猫って三半規管がいいんだな。
なかなか目が回らないし、ぐるぐるしてもすぐに復活するんだ!」
「へぇ〜」
「猫なら、お前のぐる眉見ても目ェ回さねェな!」
なんて失礼なことぬかしやがる。ヒトでも回さねぇよ!
(しかしサンジは、この後ぐる眉を見て目を回す失礼な食材が現れることを、まだ知らない……)
「あとな、猫ってすごい柔軟なんだぜ」
あぁ、それは聞いたことあるな。だから高い所から落ちても怪我しないんだよな。
「これ、鍛錬に活かせるな。もっと柔軟して体がやわらかくなれば、衝撃も逃がせるかな」
「まぁ…人間の身体能力的に、猫ほどはいかねぇだろうが…体は柔らかいに越したとはねぇよな」
ゾロは充分柔らかいとは思うが、実際に猫のような動きをするようになって実感したんだろう。
鍛練バカで剣術バカなところは変わらないので、なんだか安心だ。

と、突然ゾロがガバッと背後から抱きついてきた!
俺の首に腕を回してくる。
こ、これはなんだ!?ゾロからのお誘いか!?
「なぁ〜刺身、まだかよ。早く食いたい」
首筋にすりすりと頬を擦り付ける。かっ、可愛いっ!しつこいと言われようが、可愛いんだ!
「あ、何フェロモン放出してんだよ。んなことより、刺身!」
なっ…、んなこと、と言われてしまった…。
あーあー悪かったですよ、どーせ俺は盛りのついた犬ですよ!
しかし……そんなに密着されてすりすりされたら、俺のムスコが元気になっちゃうんですケド…。
……猫なゾロの最終日だ。夜はがんばってもいいよな?(ま、飴はまだあるけどさ!)
最近は素直だし……ムフフフフ……。
お楽しみは夜に置いといて、今は刺身だ刺身。
獲れたてぴちぴち。俺も食おうっと。
俺は、ぐいっとゾロの襟首を掴み、指定席に座らせた。
おとなしくなる姿が、やっぱり本物の猫みたいで、俺はクスリと笑う。
「ほら、すぐだからココに座ってろ」
「にゃあ」
ふざけてそんなことを言うゾロに、俺は大爆笑して、切り身を皿に乗せた。
昼間だけど、酒も用意してやるか。
酔っぱらうから、おもしれぇんだ。






















猫ゾロ続編でした。
子供のようなゾロ。ゾロから意地を取れば、かなり素直な青年なのではないかしら。
夜はおいしく食べられちゃってください!
酔っぱらったゾロもおもしろいだろうな〜素直なまま酔っぱらい…書きたいかも(笑)