「おめでとう」
「おめでとう」
言われた言葉が、サンジには理解できなかった。
頭の中が突然真っ白になるということは間々あるものだが、今回のそれは特別だ。
(おめでとうって何だ。
ゾロに祝われる出来事があっただろうか。
いや、ある。
あるにはあるが、ゾロがそれを知っていることなど、まして覚えていることなど完全に想定外だ。
今日は俺の誕生日だ。
ゾロからの祝いを期待しなかったわけじゃないが、無駄なことだとわかってる。
だから、期待した分跳ね返ってくるだろう激しいショックを受けるより、はじめから全く期待しない方が精神衛生上いい。
そうだ。こいつはそういう奴だ。
人の誕生日なんて(例えそれがコイビトだろうが)覚えているような奴じゃない。
これはアレか?新手の嫌がらせか?
それともこの間気紛れで応募した懸賞でも当たったのか?)
そんな事を考えながら、サンジはまじまじとゾロの顔を見る。
期待しなさすぎたせいで、驚きの余り固まった。
これは本当に己に向けられた言葉なのか。
ふざけているようには見えない。
いたってマジメだ。
では「おめでとう」に該当する出来事は何か。
やはりひとつしか思い浮かばない。
しかしあのゾロだ。
半信半疑のサンジだったが、ふとゾロの目から視線を外すと、それに気が付いた。
耳が、ほんのり赤い。
ゾロは、やろうと思えば感情を顔に出さないことぐらい平気でやってのける。
元々表情に出にくい質だが、サンジはその変化を敏感に感じ取る。
(照れてる?)
そこで、確信した。
ゾロが、己の誕生日を祝ってくれているのだと。
気付いて、嬉しくなった。
春の日差しで、色とりどりの花が咲き誇るように。
サンジは、笑った。
サンジが様々な思考を巡らせる間、ゾロはじっと待っていた。
目を丸くして口をあけて、阿呆みたいなツラを晒しているコイビトを見ていた。
サンジが笑顔を見せると、ゾロも破顔した。
その、素直に嬉しそうな顔が見たくて、今日を待っていた。
誕生日なんて忘れてるフリをして。
4ヵ月前の、自分の誕生日の時から。
プレゼントなんて思いつかなかった。
考えても考えてもわからなかった。
ただ、笑った顔が見たかった。
カッコつけた表情でもなく、皮肉に笑うのでもなく、純粋な笑顔が見たかった。
「やっぱその顔が、好きだ」
普段は絶対に言わない告白が、口をついた。
あ、と思ったが、サンジがまた嬉しそうに笑った。
だからいいやと、ゾロは思った。
なんてったって、コイビトがこの世に生まれた日なんだから。
即行抱きついてきたサンジに苦笑しながら、今日くらいはいいかと背中に腕をまわした。
ゾロってば、自分がやりたいことをやってるだけです。
でも、いつも与えるのはサンジくんのような気がするので、たまにはゾロからもね。
サンジくん、お誕生日おめでとう!