わがまま



「なぁサンジ、俺、お前のことが好きだ」
俺は真剣なんだ。
こんなにも真剣なのに、サンジは笑って答える。
「私も好きですよ、ゾロお坊ちゃま」
まるで子供をあやす様に言うんだ。わかってない。全然わかってねぇよサンジ。



サンジは俺の家の執事だ。そして、俺専属の世話係の役割を担っている。
小さい時からずっと傍にいる存在。俺は昔からサンジが大好きだった。
いっつも笑顔だし優しいし、何でも知ってて色々教えてくれる。
料理が得意で、俺がせがむと時々作ってくれる。
毎日サンジが作ってくれればいいのに、と言うと、
「私が作るとコックの仕事がなくなってしまいますよ」
って断られた。
コックの料理もうまいけど、サンジのはサンジが作るからいいんだ。
だって俺はサンジが大好きなんだから。

小さい頃は専らサンジが遊び相手だった。
公園に行くにも、家でおもちゃで遊ぶにもサンジと一緒だった。
小学生の時、友達が家に遊びに来るとクッキーを焼いてくれた。
俺のかあちゃんよりうめぇって友達が言ったから、俺は嬉しくって当たり前だサンジのクッキーだぞって自慢した。
中学に入ると部活を始めたから、サンジと過ごす時間はちょっと減った。
でも、家に帰ると必ずおかえりなさいって迎えてくれる。
中学生にもなると、甘えてばかりはいられないとか、世話係がいるなんて恥ずかしいとか思って、会話もぶっきら棒になった。
サンジは時々困ったように笑うようになったけど、それでも今まで通り俺に接した。
ある時学校で好きな子の話になった。
あの子はさ、笑顔がかわいいよ。髪もきれいだし。
えー俺はあっちの子がいいなー。だって優しいじゃん。
彼女の方がいいって。美人だし頭もいいし。
でも堅そうじゃん。あの子の方がしゃべってて楽しいぜ?
と、あの子がいいこの子がいいと話す男友達の様子を見ていてふと思った。
俺はサンジが一番いいって。
だって、美人でかっこよくて髪もさらさらの金髪で、優しいし頭もいいし料理もできるんだ。
でも、男なんだよな。なんで男なんだよ。女の子ならよかったのに。
自分の世話係の、しかも男の人が好きだなんて中学生の俺に言えるわけもなかった。
いつか女の子を好きになるかなぁ、でもサンジも好きだしなぁと、漠然とした想いを秘めたまま中学が終わった。
高校に入って、俺は開き直った。
だって、結局ずっとずっと今までサンジが好きだったから。
今だって新しい学校になって周りに女の子も増えたけど、やっぱり俺はサンジが一番好きだって思ったから。
だから、高校一年の夏、ついに俺は腹を決めてサンジに告白した。
「サンジ、好きだ」
顔が強張っていたが、どうにもできなかった。
拳を握り締めてサンジを見つめる俺に、サンジは少し目を見開いた。
そして笑った。
「私もですよ。坊ちゃま」
想いが実ったのだと喜ぼうとした時、頭の上にサンジの大きな手が乗せられた。
「私は生まれた時からあなたを見ているんですから。なんだか自分の弟か子供ができたみたいで嬉しかったんですよ」
そして幼稚園児にするみたいに頭を撫でたんだ。
あぁ、違うんだ、勘違いしないでくれ、俺は本気でサンジが好きなんだ。
「私はあなたが結婚してこの家を継いでも、ずっとお傍でお仕えいたします」
この想いを、どうやったらお前に伝えられるんだ、サンジ?

伝わらなかったのなら、伝わるまで何度でも伝え続ければいい。という結論に俺は至った。
それから俺の猛アタックが始まった。
好きだ。本気なんだぞ?絶対諦めねぇからな。
一日一回は、必ず好きだと言った。そのたびにサンジは律儀に返事をする。
私も好きですよ、ありがとうございます、嬉しいですね。
その笑顔はいつも優しかった。でも違う。まだ全然伝わってねぇ。
俺は戦法を変えることにした。今度はサンジに素っ気なく接した。
俺の態度の違いにオロオロして機嫌を取りにくればいい、そこで俺の本気を教えてやる。
ところが、サンジの態度は一向に変わらなかった。
いつものように俺を起こし、学校へ見送り、帰ったら出迎え、優しい笑顔で接する。
……ちっとも面白くない日々が続いた。これなら、勘違いされても俺から行動を起こした方が何倍も良かった。
結局また、それまでと同じように俺はサンジに告白し続けている。
「なぁサンジ、俺、お前のことが好きだ」
「私も好きですよ、ゾロお坊ちゃま」
そして今日もまた、俺は振られ続けている。



ある時。俺はとんでもないものを見てしまった。
学校でいつもつるんでいる友達が、登校して早々に雑誌を抱えて俺の机に寄って来た。
「おいゾロ、見ろよ!俺今朝すげぇもん拾っちまった!」
周りの女子に気取られないよう小声で叫ぶという芸当をやってのけ、俺の机に雑誌を広げる。
既に登校してきていた他の仲間が二人ほど、そいつの声に気付いて近寄る。
「何だ何だ」
「またエロ本かよ?」
そう。この喜んで雑誌を持ってきた奴は、エロ本を拾っては学校へ持ってきて、仲間内で見て楽しんでいるのである。
俺はまぁ興味はないことはないが、やっぱり一番はサンジなので、女の裸を見てもこいつらほどは興奮しなかった。
またそのテの雑誌を拾ったのだろう、相変わらず好きだなぁと、広げられたページに目をやった。
はじめは、それが何だかよくわからなかった。
しかし、それが何なのかを理解した途端、俺の心臓は盛大に跳ねた。
その雑誌に載っている写真は、いつもの女の裸ではなく、男同士が絡み合っているものだった。
「うげぇ、何だコレ!」
「お前、何拾ってきてんだよ!」
「いやだって、めずらしいだろ?こんなのが落ちてるなんてさ!ビックリしちまってよぉ」
「気持ち悪いだけじゃねぇか!」
「いや、知らないことがあるのはよくねぇぞ?やっぱり何でも知っておくべきだと思ってさあ」
小声でひそひそと怒鳴り合っている仲間の言葉など、俺の耳には一切入って来なかった。
あまりに衝撃的だったから。
男同士でこういうことが出来るなんて、知らなかった。想像もしていなかった。
「ほら、ゾロが固まっちまったじゃねぇか」
「おいゾロ、大丈夫か?」
「よし、これはお前にやるよ!持って帰れ」
「押し付けないで自分で持って帰れよ!」
雑誌が俺の鞄に放り込まれるのを、呆然と目が追っていた。

結局その日の授業には全く身が入らなかった。
いつもぼうっとしたりたまに居眠りしたりするが、一応ちゃんと授業は受けてるし、成績も悪くはないつもりだ。
しかし今日は、朝に見た男同士でヤってる写真がぐるぐると頭を回り、授業中に先生に当てられてもちっとも答えられなかった。
午前中はボケているだけで済んだ。
午後になってからが大変だった。
俺はふと、想像してしまったんだ。
サンジとああいうことしたらどうなるんだろうって。
たまに、自然と溜まったものを自分で出すことはあるが、当然、女の子としたことはない。
サンジに入れたら気持ちいいかなぁ。
でも、いまいち現実的じゃない気がした。うまく想像できなかった。
じゃあ、サンジにされたら気持ちいいかなぁ?
そう思った途端、ずくん、と体の奥が疼いた。皮膚が泡立つ。
そこから想像が止まらなかった。
サンジが俺に触れる。サンジの手が俺のものを扱く。サンジのものが俺の中に……。
あまりの恥ずかしさと興奮で頭を覆い、机に突っ伏した。
ゴンっと派手な音を立てたが、痛みを感じる余裕もなかった。
「ロロノア、どうした?」
さすがに大きな音に気付いたのだろう、教師が寄ってくる。
何度か肩を揺さぶられ、俺は少し顔を上げる。
想像で興奮しておっ勃ててしまいましたなんて、恥ずかしすぎて言えない。
「……いえ、なんでも、ないです…」
口元を覆ったまま答える。
それがどうやら具合が悪くなったように教師の目には映ったらしい。俺のおでこに手をあてて、
「……熱があるようだな。保健室へ行って少し休んできなさい」
と言った。勘違いだが正直ありがたかった。こんな状態で授業なんてとてもじゃないがやってられない。
やたらと元気な下半身を庇うようにして教室を出る。今なら腹痛に見えるだろう。
「保健委員、ついて行ってあげなさい」
「いえ、大丈夫です!授業、続けてください……」
ついて来られたら、俺の今の状態がバレてしまうと慌てて首を振る。
少し心配そうにした教師だが、この教室のすぐ下が保健室だ、問題ないだろうと判断し、授業を再開した。
俺はホッとし、授業中の静かな廊下をゆっくりと歩き、近くの階段を上り始めた。
保健室へ直行するつもりはなかった。
この熱をどうにかしたい一心で、人気のない四階の端のトイレに向かった。
四階は、普段はあまり使われない特別教室やその準備室がある。
この時間は幸運にも、どの教室も使われておらず静まり返っていた。
なんとかトイレに辿り着き、個室のドアのカギをかける。
ズボンとパンツをずり下ろして洋式のトイレに座り、俺はじぶんのものに手を添えた。

パンツはすでに先走りでぐっしょりと濡れていた。
先端を指の腹で撫でると、今までに感じたことのない快感が全身を走る。
そのままゆっくりと、上下に扱き始めた。
「うぁ…っ」
思わず声をあげ、このままでは誰かに気付かれてしまうと思い、制服のシャツの端を口に押し込み声を殺す。
「んんっ、んぅ……!」
サンジを想像しながら手を動かす。
これはサンジの手。そう思うだけで、今までの自慰では得られたことのない深い快楽が体を支配する。
俺はサンジとこうしたいのか?俺はサンジに抱かれたいのか?
自分に問えば問うほど、答えは体で返ってくる。
手の動きが速くなり、足は指先まで突っ張る。
そうだ、俺はサンジとこうしたいんだ。サンジが好きなんだ。サンジに抱かれたいんだ!
サンジ、サンジと心でサンジの名前を呼び続ける。そのたびに痺れるような快感が体を貫く。
「んんんんんんっ!!」
サンジを想いながら、俺の体は絶頂を迎えた。



重い体でなんとか後始末を終え、保健室に辿りつく。
保険医が何か言っていたが、聞く体力もないままに固いベッドへ潜り込み、あっという間に眠りについた。
次に起きたらもう放課後で、友達が俺の鞄を持って来ていた。
すべての元凶、俺にあんなエロ本を見せた張本人だ。
「大丈夫かよ、熱下がったか?先生が、今日は部活に出ずに帰れってさ」
ありがたい申し出だった。いつもは楽しい部活だが、今はそんな元気はなかった。
「迎えも来てるぞ」
「迎え?」
「ああ。なんか金髪の人が正門前にいたぜ」
どくんと心臓が鳴る。俺が知ってる金髪なんてサンジだけだ。
今日は平静でいられる自信がなかった。
さっさと帰って、部屋に閉じこもってしまうことにしよう。



迎えはやっぱりサンジだった。
運転手が高級車の運転席に収まり、俺とサンジは後部座席に乗る。
サンジは二言三言話しかけてきたが、俺がちっとも返事をしないせいで、諦めて口を閉ざした。
今サンジの声を聞くとまずい。治まったものがまた湧き上がってきそうだ。
だから、会話のない車内に安心した。
帰り着くと制服もそのままで、自分の部屋のベッドに潜り込んだ。
保健室のと違ってふわふわで気持ちいい。
きっと今日もサンジが干してくれたんだろう。
そう思った途端、また下半身が疼いた。
サンジの干した布団。当然抱えて取り込んだのだろう。
そう考えると、まるでサンジに包まれているような感覚に陥った。
もう自分の部屋にいるのだ、我慢しなくても大丈夫。
俺は布団の中でごそごそとズボンとパンツを脱ぎ、心地よい肌触りを堪能しながら手をじぶんのものに伸ばした。

「ぅん……」
さっき一度出したのにも関わらず、すぐに元気になった。
くちゅくちゅと手に粘液が纏わりつく。足が布団の中で彷徨う。
撫で上げ、押しつぶし、必死になって手を動かす。
頭はぼうっとしてただサンジのことだけを想う。
サンジ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ。
いっそう体の熱を上げ、夢中になっていたからはじめは気付かなかったんだ。
「……ゾロ様?」
いつの間にか、サンジが部屋にいたことに。
「大丈夫ですか?また具合が悪くなったのですか?」
そうか、鍵、掛け忘れたなぁと思う。
きっとサンジは、俺の様子が変だったから気になって部屋にやって来たのだろう。
必ずノックをする奴だから、俺が気付かなかったんだ。
それで返事がなくて心配して入ってきたんだろう。
「ゾロ様」
俺のすぐ近くに顔を寄せる。
あぁ、綺麗な目だ。青くて澄んだ色。海みてぇに深くて広い優しい目だ。
大好きだ。
サンジが恋しくて恋しくて仕方がなかった。今すぐに、サンジが欲しいと思った。
俺は布団から手を出し、サンジの手を握った。
「サンジ……俺、サンジが好きだ……」
「ゾロ、様……?」
「俺、ヘンだ……サンジのこと考えると、ヘンになっちまうんだ……」
俺の手には、少し乾きはじめた液体がこびりついている。
それに気付き、サンジは初めて俺の前で、驚愕の表情を浮かべる。
新しい表情だ、初めて見た。すごく嬉しかった。
俺が何をしていたか、その手と俺の顔から正確に読み取ったんだろう。次は困惑の表情を浮かべた。
でも俺は諦めない。
「サンジっ、俺を、抱いてくれよ…!」
目に涙が浮かぶ。振られ続けた日々がよぎる。
俺の本気を、知ってくれよ。
「サンジ……好きなんだ……」
捕まえた手に縋りつく。逃がしたくない。

どれくらいそうしていただろうか。何も答えないサンジに、不安と怒りが綯い交ぜになってキッと顔を上げる。
だが、俺が言葉を発する前に、するりとサンジの手が抜けた。
「え…?」
そのまま何も言わず、サンジは部屋から出て行ってしまった。
「……サ、ンジ?」
何が起こったのかわからなかった。いや、何も起こっていない。ただサンジが出て行っただけ。
そう、何も言わず、俺を見ることもなく、サンジは去っていった。
これが何を意味するのか。
考えたくない。しかし、気付いてしまった。

俺は、振られてしまったんだ。

今度こそ本物だ。
だってきっと、俺の本気が伝わった。
サンジはびっくりしてた。
俺はちゃんと言った。抱いてくれって。
サンジを想って抜いてたその手で、サンジの手を取った。
サンジはその手を、すり抜けた。
ずきんと、胸が音を立てた。
きゅぅっと心臓が絞られる。
涙が零れ出た。
胸元のシャツを握り締め、溢れ出る嗚咽を押し殺した。
あぁ、俺は失恋したんだ。
押し殺そうとしても、想いはどんどんどんどん溢れ出て、堪え切れなかった。
「うあああああぁぁぁぁ!!」
あたたかい布団が、俺の声を吸い込んでくれた。



泣いて泣いて泣いて。
少し冷静になった俺は、サンジに謝らなくてはと思った。
だって、俺は一方的に押し付けた。
子供みたいに好きだ好きだと言って、サンジの気持ちも確認せずに抱いてくれと迫った。
ずっとサンジに甘え続けていた。だからそれが当たり前だと思ってしまっていた。
いつも俺を優先して、俺の事を想っていてくれることが。
けどそれは、俺を好きだからじゃない。サンジの仕事だからだ。
俺が生まれた時から、俺を見ていると言ってた。
それはつまり、俺がサンジの人生を奪ってきたということだ。
俺が結婚しても、ずっと傍にいると言ってた。
それはつまり、これからも俺はサンジの人生を奪い続けるということだ。
それほどまでに尽くしてくれている相手に、俺はこれ以上何を望もうというのだろう。
情けない。俺はまだまだ子供だった。
サンジに謝らなくては。
胸が痛い。辛い。
けれども、逃げるわけにはいかない。
俺が悪いんだから。
ぐいっと目に残っている涙を拭い、体を起こした所で部屋のドアがコンコンと音を立てた。
「……どうぞ」
声が揺れないよう、腹に力を入れる。
入ってきたのはサンジだった。
「……失礼します」
「サンジ」
下半身はまだ何も身に着けていない状態だったので、布団で隠しながらもはっきりと声に出す。
「さっきは、悪かった」
サンジは少し、目を見開いた。
「今までも、一方的に俺の気持ちを押し付けて悪かった。俺のわがままにつき合わせて、悪かった」
ひといきに言ってしまわないと言葉が途切れそうだったので、思ったことをとにかく口にする。
「もう言わない。俺のわがままを押し付けたりしない。だからお前も、俺を甘やかさなくていい」
大人にならなくてはいけない。
「今まですまなかった。もう迷惑はかけない。だから……」
緩みそうになる涙腺を叱咤する。
「だから、これからも、傍にいてくれ。出て行かないで、くれ……サンジ」
それが俺の精一杯。
本当は受け入れてほしかったけど、無理強いはできない。したくない。
でも、傍にいてほしい。
だから、サンジが気持ちよく俺の傍で働けるようにしてやりたい。
サンジが辛い想いをするのは、イヤだから。
泣きたくなんかないという想いに反して、ついに涙が零れ落ちた。
慌てて手の甲で擦る。

その手を、サンジが取った。

「擦ってはいけませんよ」
優しい顔だった。
甘えてはいけないと、先程自分に言い聞かせたばかりなのに。
サンジが優しく、頭を撫でるから。
俺は我慢できずにサンジに抱きついた。
「サンジ、サンジ、サンジ…!」
子供をあやすように、サンジの手が俺の背中を撫でる。
すごくあったかい手だった。
俺が泣きやむまで、ずっとそうしてくれていた。



頭の上から、サンジの優しい声がする。
俺はこの声も大好きなんだ。
「申し訳ありません。あなたをこんなにも追い詰めていたとは……」
ふるふると、サンジの胸の中で頭を振る。
違うんだ。俺が勝手に突っ走ってただけなんだ。サンジはちっとも悪くない。
「私が12歳の時にね、あなたが生まれたんです」
昔話はよく読んでくれたけど、サンジの昔話は初めてだった。
「その時にね、父親に言われたんです。『お前がこの子を守るんだよ』って。私は子供ながらに、使命感に燃えました」
そんな小さい時から、俺の傍にいてくれたのか。
「親のように愛情を注いできたつもりです。だって私は、あなたが大好きでしたから」
その『好き』は、きっと俺のとは違うけど、嬉しかった。
「だけどね。ずっと言い聞かせてきました。この子は私の主人なのだから、と」
そう。それは俺が生まれたる前から決められていたこと。
サンジの家は代々、俺の家に仕えてくれているから。
「いずれはこの家を継ぐ大きな人間になるのだから、この気持ちを伝えてはいけないと」
「……え?」
言われた意味がわからず、俺は顔を上げる。
サンジは、いつもの困ったような顔に、少し照れているような表情を滲ませた。
「だけどあなたったら、私のそんな気も知らずに猛アタックしてくるんですから。困りましたよ」
そりゃ猛アタックの初めの頃は困った顔も見せていたけど…だんだん笑顔で受け流してたじゃねぇか。
「そして……どこで覚えてきたのか、ついには『抱いてくれ』だなんて言い出すし」
先程のことを思い出し、顔が一気に熱くなった。
絶対今の俺の顔は、茹で蛸のように真っ赤になってる。
「あなたは、私の理性を試すようなことばかりおっしゃる」
「……理性?」
「ええ。はじめはきっと、子供ながらの好きの延長だと思っていました」
「違う!本気だっていつも言ってたじゃねぇか!」
「それは私が悪いんです。…あなたのことを、ずっと子供だと思っていましたから」
その言葉に、俺は頬を膨らませる。薄々そうじゃないかとは思っていたからだ。
そんな俺にサンジは苦笑いする。
「怒らないでくださいよ。だって、こーんな赤ん坊の頃から見ているんですから」
こーんな、と親指と人差し指で小さな幅を作る。赤ん坊はそんなに小さくないやい。
「でも、先程のあなたを見て……」
……だから、それは恥ずかしいから忘れてほしい。
自分でもびっくりするくらい積極的だったんだから。
「あぁ、大人になったんだなって思いました。……だから、私も腹を括ったんです」
サンジは俺の肩を掴み、真剣な目で俺を見つめた。
「あなたのお父様にお願いしてきました。あなたを、私にください、と」
「………………は?」
「ゾロ様、私は、あなたが好きです」
サンジの目は真剣だ。きっと、俺がサンジに告白した時と同じくらい。
「あなたを抱きたいと、そう思います」
時間が止まる。
脳が活動を再開するまで、ひどく時間がかかった。
だが。
その言葉が心に届いた瞬間。
一度諦めた気持が、止めどなく溢れかえった。



「サンジ……サンジ……!」
夢中でサンジの唇を追いかけた。初めてのキスは甘かった。
サンジの指は俺のシャツのボタンを外していく。
下はすでに何も穿いていなかったので、勃ち上がったそれはサンジの目にも露わだろう。
俺も震える手でサンジの服に手をかける。
うまく脱がせなかったが、サンジが自分でボタンを外してくれた。
あぁ、サンジもがっついてるなぁ。
そう思うくらいに、サンジは必死な顔をしていた。もちろん初めて見る表情だ。
全部脱ぐのはもどかしいと言わんばかりに、はだけさせただけで再び俺の体に指を這わす。
顔、首筋、乳首、臍、内股と徐々に下へと辿っていく。
「サンジ…早く、触って…!」
俺のほっそい理性なんて、あっという間にサンジに千切られた。
初めて他人から与えられる快感に身を任せ、ただただサンジに縋りつく。
サンジは左手で俺を抱きしめたまま、右手で器用に俺自身に触れ、今日初めて知った男同士で繋がり合うその場所に触れた。
「ゾロ様、痛かったらすぐに言ってください」
「様なんて言うなよ…!こんな時くらい、ちゃんと名前で呼べ」
無茶な注文をしたかなと少し後悔した。だって、主人を呼び捨てになんて出来ないように躾けられているだろうから。
だけど、呼んで欲しかったんだ。恋人みたいに。
「………ゾロ」
諦めていたその時、サンジが呼んでくれた。
『ゾロ』と。
ゾロ様でもお坊ちゃまでもなく、ゾロと呼んでくれた。
嬉しすぎて、サンジに抱きついた。
「サンジ!」
「あ、ちょっ……!」
「ああっ…!」
勢いよく抱きついてしまった拍子に、サンジの指が入ってしまった。俺の、中に。
心の準備も整わないまま、しかも結構深く入り込んでしまった。
異物感と激しい違和感に俺は動けなくなってしまった。
「ゾロ、痛く、ありませんか…?」
サンジは、抜きたくとも抜けないのだろう。動かしたら痛いかもしれないと思って。
「痛くは……ないけど……」
不思議だった。ケツに物を入れたら普通は痛いもんじゃないだろうか。
「よかった……塗っておいて……」
「塗って…?」
「ええ。潤滑剤」
いつの間にそんなものを用意して塗ったのだろうか。
さすがサンジだなぁと感心していたら、サンジの指が動き始めた。
「あっ、やっ」
ケツの中で指を抜き差しされて、俺は頭がおかしくなりそうだった。
気持ちいいのか気持ち悪いのかもわからず、サンジの指に翻弄される。
「あぅっ、サンジっ、やだっ!」
俺の嫌だの言葉に、指の動きが止まる。
「あっ、すみません……つい、調子に乗って…!」
慌てて引き抜こうとした手を、腕を掴むことで止めた。
「抜くなっ」
「え…でも……」
「抜くなよ…っ」
自分でもチグハグなことを言ってるのがわかるのだが、サンジが離れていく方がイヤだったのだ。
困り顔になったサンジは、ふと気付いたように、俺のものに触れて扱き始めた。
「あっ、サンジっ、あっ、あぁっ」
前と後ろを同時に責められる。
また俺は頭がおかしくなりそうだった。でも今度は、気持ちよくておかしくなりそうだった。
「んぅ、ヤだ、サンジっ、イクっ、イっちゃうっ……!」
俺の手は必死にシーツを掴む。背中がしなり、腰が浮く。
サンジの手の動きが速くなる。
「あっあっあっ、ああっ、サンジっ、サンジぃっ、………っああああああっ!!」
電流が背骨を走る。足の先から頭のてっぺんまで、激しい痺れが突き抜ける。
サンジの手で、俺は辺りに精液を飛び散らせた。



その後、お互いのものを擦り合わせて何度もイった。
サンジは、後ろに入れるには負担が大きいから、もう少し慣らしてからにしましょうと言った。
俺は今すぐでもいいって言ったけど、傷つけるのがわかっててそれはできないと断られてしまった。
そのかわりに、指で中を弄られまくった。
もちろん後ろだけだと違和感と気持ち悪さを拭いきれないから、前と一緒にだけど。
キスも、人の手でやってもらうのも、後ろに入れられたのも、全部サンジが初めてだった。
初めてがサンジだったのが、すごく嬉しかった。
「少しずつ、慣らしていきましょうね」
楽しそうにサンジが笑うから、新しいおもちゃ見つけたみたいな顔してるぞって言ってやった。
そしたらサンジの奴、
「だって、本当にそんな気分なんですから」
って言いやがった。
俺はおもちゃかよって言い返したら、
「いいえ、私がゾロのお人形さんです。お人形さんがご主人さまと遊んでもいいでしょう?」
なんて言いやがった。

けど、何を言われても、結局俺の負けなんだ。
だって、惚れた弱みって言うんだろ?
俺、サンジのこと、大好きだもん。
絶対、捕まえて逃がさないからな。
サンジ。


















勢いで書きましたすみません。
最後までいたしてませんすみません。
でも、甘えたゾロは積極的なんだと思います。
年の差がありすぎるからこそ、俺を見てって迫れるんじゃないかなぁ。